フラワー・ストーリー‐本編 access_time

フラワー・ストーリー 第7章

 あの壁のあとは、ただ険しいだけの道のりが続いた。
 ほとんど垂直に近い上り坂や、時々開いている大穴などがあったが、何とか進んでいった。
 真っすぐ進んでいくと、不意に目の前が明るくなった。
 目もくらむような眩しさを放つ、巨大な部屋があった。
 あまりの変化に、思わず目を覆う。
 その瞬間だった。
 突然凄まじい雄たけびが上がった。
 何とか目を開けると、そこには巨大な何かがいた。
 それは、蒼い星型の斑点がついた、竜だった。

「竜が、まだアーチにいたなんて……」
 私も美羽も、とても驚いていた。
 竜は古代のアーチに生息していた神聖な生き物で、数千億年前に絶滅したとされている。
 この竜は、絶滅したとされる唯一の生き残りなのだろう。
 人間を超越する魔力と知能を持っていたとされる竜のことだ。
 二つの洞窟を連動させて、他の竜を阻む仕掛けを作ったのも、きっとこの竜だろう。
 そうやって安全なねぐらを見つけた竜は、深い眠りについて、餓死も免れ、人間にも見つからないまま、生きていたのだろう。
 しかし、私はすぐにそんな事を考えている場合では無い事に気づいた。
 竜は、何万年ぶり、いや何億年ぶりかの生きた獲物の存在に気づき、地響きをさせながらゆっくりと近づいてきたからだ。
 先に動いたのは、美羽だった。
「あたしが竜をひき付けるから、その間に真衣は花びらを探して!」
 その言葉で思い出した。
 私たちがここに来た目的は、花びらを見つける事だった。
 そう考えている間にも、美羽は竜にショックガンを撃ったりして、足止めしようとしている。
 しかし、竜は魔力を持った生き物であり、科学が効く訳が無い。
 びくともせず、美羽を標的にしてゆっくりと近づいている。
「危ない!」
 私は叫んで、思わずナイフを投げつけた。
 もし竜がこれで死んでしまったら、私は竜を絶滅させてしまう。
 そんな罪悪感が一瞬起こった。
 ところが、その予想は外れた。
 ナイフは、竜の硬い鱗に弾かれ、私のすぐ近くの地面に突き刺さった。
 竜は何事も無かったかのように、美羽を追い詰めている。
 何か手は無いかと考えたその時、私の目にあるものが映った。
 それは、まぎれもなく、夜空のような妖しい光を放つ、小さな花びらだった。
 私は、一瞬美羽の事も竜の事も忘れ、その不思議な花びらにただ魅入っていた。

「真衣!何やってるの!?」
 美羽の声で、私ははっと我に返った。
 気がつくと、竜は美羽ではなく、私の方に近づいてきていた。
 あの花びらは、竜が獲物を捕らえるための罠になったのだろうか……?
 そんな事を考えた私は、ふと同じ様に死が近づいていた、2週間前の事を考えた。
 あの時、私は両親の元へ行きたいという気持ちで、いっぱいだった。
 死んでもいい、悔いはないと思っていた。
 私は、あの時、命拾いをした。
 無二の親友と再び過ごせる、とても幸せな、2週間という「猶予」を与えられた。
 そう考えれば、ここで死んでもいい。そう思えてきた。
 私は、静かに竜が近づき、私の命を奪うのを待った。
 その時だった。
 竜は突然、その爪の先を慎重に私の心臓にあてた。
 そして、竜は神妙に目を閉じると、そのまま動かなくなった。
「………?」
 美羽が恐る恐る近づいて来た。
 その顔には、戸惑いが浮かんでいる。
 私は、美羽に説明した。
 根拠は無かったけど、確信があった。
「たぶん、この竜は、テレパシーが使えるのよ。
 それで、私がこの竜を傷つけるつもりが無い事もわかったし、すでに食べたばっかりだったから、今から冬眠すればまた何千年も生きていける、そう思ったんじゃないかしら」
「どういうこと?」
「おそらく、花びらを狙っているのは私たちだけじゃなくて、地球人も狙っているのよ。それで、地球人はここに来たんだけど、竜を邪魔に感じてころそうとしたけど、花びらに魅了されているうちに逆に食べられたの。地球人が来たのは4年前だから、早くても地球人が来たのは3年前くらい。何千億年も生きてきた竜にとって、そんな時間はほんのわずかにしか感じないだろうし、地球人は何百人もの兵隊で来たんだろうから、殺意を感じない二人の少女を食べる必要も無かったんだと思うわ」
「じゃあ、私たちに向かってきたのは……」
「地球人と同じ様に、殺意を持っていると思ったからでしょ。でも、殺意を持った攻撃とは到底思えなかったから、テレパシーで確かめた。それで、また永い眠りに就いたんだと思うわ」
 私たちは、しばらくそのきれいな斑点を持つ竜に魅入っていた。
 しかしすぐに目的を思い出し、花びらに近づいた。
 夜空を映すかのようなその花びらを、私は丁寧に小さなピンク色のケースにしまった。
 美羽が何かに気づいたように息を呑んだが、すぐににっこりと笑った。
「あ、そういえば……」
 美羽が突然呟いた。
「ん?どうかしたの?」
「彗星の滝って名前、どういう意味だったのかな?」
「たぶん、この洞窟と竜の話がこのあたりに神話として伝えられていくうちに、あの竜の斑点が自然とそう呼ばれたんじゃない?遠い昔、竜と人間が一緒に暮らしていた時代もあったっていうし」
 こうして、私たちは次の花びらがある、第二の魔境へと旅立つ事になった。
 夜空のように輝く、不思議な花びらをコートのポケットに収めて。

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