フラワー・ストーリー 第9章
「一体、あなたは誰なの?」
私はその人に聞いてみた。
「そうねぇ……答えてもあたしは困らないよ。でも、あんたたちが地球人じゃない証拠もないのよね」
「それは……」
言葉に詰まる私たちを見て、その人はまた微かな笑みを浮かべた。
「冗談よ。あたしは、あんたたちの事知ってるから」
そういって、その人は美羽の方を向いたようだった。
どうやら、暗闇でも目が見えるらしい。
「菊川美羽、14歳。4月22日生まれのドリームウィング副リーダー。家族は──」
「ストップ!何でそんなに知ってるの?」
「名前は二人が話してるのを聞いた。ドリームウィングの副リーダーの名前と誕生日は地球人の指名手配ポスターで誰でも知ってるから」
そういいながらその人は、さっき開いた穴へと向かっているようだった。
その人は穴をくぐろうとしたけど、不意に振り向いたみたいだった。
そして、こう言った。
「早く来なよ。それとも、ずっとこの穴にいたい?」
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「あたしの名前は、めぐみ」
「めぐみ?苗字は?」
あの後、私たちはすぐに穴に入って、寝てしまった。
本当はすぐにでもこの人──めぐみ──の正体を知りたかったけど、めぐみに誘われたし、疲れていたので、一晩経ってから改めて話す事となった。
苗字は、と美羽が尋ねると、めぐみの顔が少し曇った。
「苗字は、ないよ」
「何で?」
「……私、記憶喪失だから」
めぐみはわざと気軽に言った。
それが精一杯の守りなのだろうと、私は気づいた。
気まずい空気の中、何か他の話題はないかと探してみたが、その前に沈黙を破ったのはめぐみだった。
「いいよ、気を使わなくても。ところで、あんたたちは何でここに来たの?」
話題を変えた事はすぐにわかったけど、食い下がってもしょうがないので、答える事にした。
とはいっても、ドリームウィングの任務の事もいえないし……。
「えーと……」
「──あたしなら大丈夫。地球人じゃないし、たぶんあんたたちとは仲間だから。
あたしはここに住んでるって話、したよね?
でも、ずっとここにいるわけじゃない。いつもは、地球人の基地に行って、基地を壊滅させてるんだ。
あたしも、あんたたちと同じ様に指名手配されてるよ」
「え!?」
予想以上の展開に、私はついていけなかった。
「だから、あんたたちと目的は同じ。信用してくれる?」
その瞳が、嘘をついていないと語っていた。
「……あたしたちは、地球人を倒すために、花びらを集めてるの」
「……ああ、あの《願いが叶う花びら》の伝説ね。知ってるけど、ただのおとぎ話じゃないの?」
「ううん、本当みたいなの。証拠は無いんだけど……」
「じゃあ、一つ目の花びらは『彗星の滝』にあるの?」
「というか、あった、ね。私たちが取ったの」
そういって、私はピンク色のケースから、花びらを取り出した。
「確かに、本当みたいだね、この花びらを見てると」
「でしょ?で、二つ目の花びらは『地底の湖』にあるの」
「ふうん。だったら、あたしも一緒に行ったげよっか?」
「え?でも……」
「……あんたたちなら、信用できると思うんだ。目的も同じなんだから、二人より三人のほうがいいでしょ?真衣、美羽」
「……まぁ、あたしはその方が嬉しいな」
美羽は賛成した。
「私も。反対する理由もないしね」
私たちが認めると、めぐみはにっこりとこう言った。
「じゃあ、決定!裏道があるから、地底の湖の近くまで一週間で行っちゃおう☆」
「え!?」
私たちは驚いた。
地底の湖までは、最低でも1ヶ月くらいかかると書いてあったからだ。
「いくらなんでも、それは……」
「この地下通路で、あたしより早く移動できる人はいないね。5年間、ずっとここを拠点にしてたんだから」
「5年間!?そんなに?」
「それ以外にやる事もなかったしね。それより、早く行ったほうがいいんじゃない?地球人も狙ってるんでしょ?」
「それもそうね」
「じゃ、行こう。よろしくね、真衣、美羽」
めぐみが手を突き出した。
「よろしく」
私と美羽は同時に言って、その手の上にそれぞれの手を重ねた。
こうして私たちは、めぐみを仲間に加え、決意も新たに地底の湖を目指す事となった。