真っ白なしずく access_time

真っ白なしずく #1

 その日。  私は、うちの近くにある大きな公園の中を歩いていた。  私の住んでいる若葉市は特殊な作りをしていて、このムダに大きな町のシンボル「若葉公園」がベルリンの壁のごとく市を真っ二つに引き裂いていた。  その代わりこの公園は豊かな自然に溢れていて、遊園地や動物園も入っているかなり快適なところなのだ。  が、もうちょっと他に快適にすべきことがあったような気がする。  なんせ、通っている中学はこの公園の反対側にあるのだ。  通学路が道路ではなく森の中なので、歩きにくいことこの上ない。  特に今日は昼間に雨が降ったので、泥になっていた。本当に歩きにくい上に服が汚れる。  一応公園の上空をモノレールが通っているが、有料なのでやっぱり関係ない。 「……うだー……」  歩きながらどんどんやる気が亡くなった。  まだ5月にもなっていないというのに新学期特有の高揚感は早くも失われていた。      私の名前は涼風雫。  14歳で、一応受験を控えた中学3年生なのだが、特に志望校もないため、絶対受かってやるぞー!などという気はさらさらなかった。 「別に落ちてもどっかしら拾ってくれるシステムだしなー、高校は」  本当にどうかは知らないがたぶんそうだと思う。  高校で浪人って聞いたことないし。      今は学校の帰り道。  ──だったんだけど。 「ここどこ?」  気がつくと、私は謎めいた空間に迷い込んでいた。  ……ファンタジーっぽく言ってみたけど、要するに、迷子だ。 「2年以上通ってる道で迷子って……」  我ながら情けなくなる。  仮にも最上級生だよね? 「でも、本格的にどこかわかんない……」  どう考えても見た事ない場所だ。  私は迷子になりやすい上に記憶力が悪い性質を持っているので、普通の通学路を勘違いしている可能性もある。  どこを見ても木しかないような森の中なのでなおさら疑わしい。  ──疑わしい、が。 「いくらなんでもこれは間違えようがない!」  私の目の前には、巨大な穴が空いていた。  それも、半径2メートル、深さ5メートルくらいあるようなビッグサイズの穴だ。  これはどう考えてもお茶目な子どもが「誰か落ちないかなー」とか期待しながらイタズラで作れる範囲を大きく越えているし、どんなに用心深い犬でもこんな真剣に骨を埋めようとは思わないであろう。  そんなスケールの穴だった。 「誰がこんな穴を?」  とは言ってみたが、機関のメイドさんがヘリから飛び降りてきたのでない限り、この穴は簡単に掘れるものではない。  となれば、元からあった穴と考えるのが自然だ。 「……こんな穴、公園にあったかな?」  私が「穴」というキーワードで自らの記憶の中を検索していると、    何かが爆発した。    実際に見えた訳ではない。  しかし、凄まじい風圧と鼓膜が破れるような轟音は、間違いなく爆発のそれだった。  無意識の内に音の聞こえた方角へと走ってみると、そこには二人の男が立っていた。  一人は深い青色、もう一人は銀色に輝くマントを付けている。  どちらも20代後半くらいで、身長はおそらく170センチほどだろう。  しかし、なぜか二人の雰囲気があまりに険悪だったので、私は慌てて近くの木陰に身を隠す。  二人の男は、まるで魔法使いが持っていそうな長い杖を相手に向けて、睨み合っていた。  杖は、マントと同じ色で綺麗に染まっている。 「ここは我々メルクリウスの領域のはずだが?」  青マントの男が嫌悪感をむき出しにして尋ねる。 「だからどうした。ここに立ち入る事自体は問題ないはずだ」 「だがここは我々の領域だ。貴様だって、<神教協定(テルス・ルール)>くらいは頭に入っているのだろうな?」  意味のわからない単語が飛び交う。  この人たちは誰なんだろう? 「もちろんだ」  お互いに杖を下ろす気はさらさらないらしい。  そういえば、さっきの爆発音は何だったんだろう?とふと思ったところで、 「では、その法に基づき、貴様を──殺す」  青マントの男が杖を振った。    突如として、激しいつむじ風が巻き起こった。

真っ白なしずく #1 への{{comments_list.length}}件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

真っ白なしずく カテゴリーの最新記事