フラワー・ストーリー‐本編 access_time

フラワー・ストーリー 第40章

「ねえ、萌香……なんで、名前で……?」
 私はこう聞いてみた。
「ああ、それは……こいつが私の、元カレだからよ」
「……へ?」
 私の思考は、それを理解するのに一瞬止まった。
「今は、ただの敵だけどな」
 恭介がそう答える。
「……恭介だって、わかってるでしょ?アーチ人は、敵なんかじゃないって……」
「いや。俺は、今までなぜアーチ人を生かしてたのかすらわからない。
 ここだって、俺が占領のリーダーだったから、皆殺しにしたわけだし」
 それで、私はようやく思い出した。
 どこかでこいつの声を聞いた事があると思ったら、母と戦っていた相手だったのだ。
「お前の母親…渚だっけ?あいつを殺したのも、俺だよ」
 その言葉で、強い憎しみが燃え上がってきた。
 しかし、その前に進み出たのは、父だった。
「私の妻を殺したのは…お前か?」
「……ってことは、お前はこいつの父親か。
 偶然だな。よかったじゃないか」
「何がだ?」
「娘に最期を看取られるんだからよ!」
 そういって、恭介は銃の引き金を引いた。
 銃弾は父の腹を直撃し、父は激しい痛みに倒れた。

「お父さん!」
 恭介が銃を構えていたが、私は無視して駆け寄った。
「くっ…真衣……」
 父は痛みをこらえて言葉をつないだ。
「しゃべらないで!」
 私が止めたが、父はかまわなかった。
「お前に、どうしても伝えなきゃいけない事がある……」
「……何なの?」
 私はその言葉が気になり、聞いてみた。
「お前には……」
 恭介も、その言葉を聞くまでは生かしておくつもりらしい。
「真衣……お前には……兄がいるんだ……」
「嘘……」
 その瞬間、世界が止まった──そんな気がした。

「嘘でしょ?お父さん……」
「いや、本当だ……。
 お前の兄は…、お前が生まれるほんの少し前に、誘拐されてしまったんだ………」
 幼い頃に、誘拐。
 その言葉を聞いた瞬間、私はある一つの予想が浮かんだ。
 なぜそこで、唐突にあの人が浮かんできたかは、わからなかったけど。
 私はそれを認めたくなくて、必死に打ち消そうとする。
「……だが、今ならわかる。
 きっと、あいつは地球人にさらわれたんだろう……」
 真実味を帯びていく、予想。
 それは、私にとってもっともつらい現実だった。
 でも、私が両親以外から家族の温もりを感じたのは、一度しかない。
 そう、地底の湖で──。
「あいつの名前は……」
 きっと、違う。
 私は、私の世界を崩したくなくて、必死に否定しようとした。
 私が考える想像が事実だとしたら、私は、人としてやってはいけない事をやってしまった事になるから……。
 でも、そんな私の抵抗は、空しく終わった。
「あいつの名前は……、稔だ」
 その言葉を紡ぎだすと同時に、父は静かに息を引き取った。

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