フラワー・ストーリー 第49章
私は、花びらを取った瞬間に、何か劇的な事が起きると思っていた。
なので、何も起きなくて少し拍子抜けしてしまった。
でも、ケースに一緒にいれて重ねてみても、まだ何も起きなかった。
「まさか……」
この伝説は、単なるおとぎ話……?
だとしたら、今までの冒険や、夢人たちの犠牲は、なんだったんだろう……。
言い知れない恐怖を感じながらも、ある事に気づいた。
花びらが嘘なら、ここに美羽が入れなかった事や、この塔のさまざまな仕掛けの説明がつかないではないか。
そう考え直して、私はこの部屋をくまなく探し始めた。
すると、不思議な版を発見した。
それは、*という星印の形の薄い溝が彫られている石版だった。
その大きな記号の上に、文章が英語で彫ってあった。
ただし、古くて、ところどころが消えかかっている。
《C–le-t D–am-. A-d, –an-e T-e Wo–d》
「何だろう、これ……」
美羽がいれば、もう少し、簡単に解けるかもしれない。
私は、ここで、仲間の大切さを改めて強く感じさせられた。
私は文章は考えてもわからないと思い、しばらくその形を眺めた。
「あ!」
よく見ると、ちょうど花びらが入る大きさのようだ。
私は、1枚ずつ、花びらをはめ込んでいった。
夜空のような、紫の花びら。
光を反射して輝く、黄金色の花びら。
透明に近いほど澄んだ水色の花びら。
紅に染まる、赤の花びら。
人を落ち着かせるような、緑の花びら。
そして、光を全て吸い込んでしまうような、漆黒の花びら……。
全てを石版にはめ込むと同時に、石版が光りだした。
「うわあっ!」
私は、目のくらむようなまぶしい光に包まれ、そのまま意識を失った。
***********************
(気がついたか、少女よ。)
意識はなく、周りには闇しか見えない。
でも、声だけが聞こえてくる。
「誰?誰が話してるの?」
(私か?私が名乗る必要は、ない。
お前が、この空間に来たのには、わけがあるのだろう?)
「え?」
(お前は、この空間に来る、権利を得た。
ここに来た以上、私はお前の願いを一つ、叶えなければならない。
もちろん、叶えない、という選択肢も、あるがな。
ただ、どんな願いでも叶えられるというわけではない。
誰かの個性を奪う願いは叶えられない。
あの人の性格を直してほしいだとか、自分を好いてほしいとか、そういった類の事はだめだ。
あとは、願いを増やす、という願いもだめだ。
だが、それ以外なら、何でもいい。
さあ、どうする?)
そういわれて、私は考えた。
私の願いは、地球人を追い払う事。
つまり、今すぐ地球人を1人残らずころせば、それで済む話だ。
「私の願いは……」
そこまで言って、私は言葉を切った。
地球人の命を奪う願い、それは、間違った方法ではないか?
侵略者の庭で、考えていた事を思い出した。
たとえば、地球人の全てを奪ったとしよう。
そうしたところで、私、いや私たちに残るのは、罪悪感だけ。
そんな事、私は望んでない。
なら……。
地球人のいなかった時代に戻り、地球人の来ない未来を迎える?
たとえそうしても、やはりこの時代に取り残された人々は、ここで終わりを待つ事になる。
それに、夢人やめぐみや萌香に会えない世界。
そんな、運命を無視した世界に、意味はない。
なら、私が望むのは……。
誰も死なずに、平和に、共生できる世界を創る事。
つまり、この世界を変える事。
「あ……!」
あの石版の意味も、ようやくわかった。
《C–le-t D–am-. A-d, –an-e T-e Wo–d》
これは、きっと、
《Collect Dreams. And, Change The World》
と書いてあったのだろう。
夢を集めなさい。
そして、世界を変えなさい。
でも、その言葉は、きっと、罠。
私は、花びらを使って世界を変えたりはしない。
そんな、近道は、しない。
私は、花びらを、世界を変えるための準備として使おう。
(願いは、決まったか?)
「はい」
本当は、家族にもう一度会いたい、とも思う。
でも、両親や、稔が、望んでいるのは、そんな事じゃなくて。
私たちが、この世界を変える事だけだと、思うから。
本当は、もっと戻したい、そう思う。
あの人を1人で呼び戻したら、それは一番酷な事かもしれない。
でも、1人1人の小さな幸せは、優先できないから……。
本当は、もっと欲張りたい、そうも思う。
全てを戻せたら、それが一番いい。
でも、私は、その人たちの分まで、頑張れるようにする。
そのためには、私たちが5人で集まる事が、一番重要で。
だから……。
「私の願いは………」