映画・音楽・小説の感想 access_time2016.09.07 15:12 update

映画『君の名は。』ネタバレ感想、またはファンタジーのリアリティについて

 月曜日に「君の名は。」を観てきました。

 平日の昼間なのにほぼ満席でビビった。

 新海誠作品初鑑賞とかいうドニワカで、ちゃんとした考察ができるわけでもないので、簡単に思ったことだけ書いていきます。

 簡単なのにネタバレします。タイトル通りネタバレ全開です。

 この作品、ネタバレされると面白さが半減どころじゃないので、これから観る人は読まないでください。

 いや、だいたいの映画がそうっちゃそうだけど、ガルパンとかアイマスとかズートピアとかは、あらすじわかってても面白い作品じゃないですか。ああいうのとは全然違うと思います。

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 そんなわけで前情報ほぼゼロで行ったし、新海誠作品の特徴とかも一切知らなかったので、

 「たぶん入れ替わりラブコメなんだろうなー」「最後ちょっと泣けるヤツなんだろうなー」くらいに舐めて構えてまして、

 なので完全にやられました。

 観た人の評判がすこぶるよかったので面白いのだろうとは思ってましたが、想像の遥か上を行く面白さだった。

 序盤ではいわゆる「入れ替わり作品のお約束」がツボを押さえつつも割と駆け足で消化されていったので、テンポの良さを楽しみながらも「こんなポンポン進むのか」とちょっと戸惑いました。いや、ちゃんとツボは押さえてたのですが。

 そして中盤。

 村が災害で壊滅していたことが明かされる例のシーンで、本当に全身鳥肌が立ちました。

 完全に不意打ち。ぞわっとしました。

 「実は三葉だけは死亡者リストに載っていない」的な流れを予想するも、それすら打ち砕かれる展開でさらに絶望……。

 

 そこから終盤。再びの入れ替わり&時間遡行によって村を救う展開になるのですが、

 正直ここまでくると「全員助かるなんて無理だろう……」という感じで、

 三葉以外死ぬ展開とか、逆に三葉だけが逃げ遅れて犠牲になる展開とか、とにかく思いつく限りのバッドエンドを予想して、

 最終的に一息つけたのは新聞の「死亡者数0」に書き換わった記事が映った時でした。

 

 とはいえその後も「会えないんじゃないか」「お互いに思い出さないまますれ違って終わるんじゃないか」という不安がもぞもぞと蠢き、

 その不安と緊張が最後の最後、階段で一旦すれ違うところまでずっと張り続けただけに、

 最後の最後でちゃんと思い出した時は心からホッとしました。

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 で、個人的にはすっかり満足したのですが、

 一方で、あまり気に入らない人がいるというのもよくわかる映画になっていて。むしろ、これだけ大絶賛されてることに違和感あるくらい、賛否両論であるべき映画のような気もするんですよね。

 ウェブ検索すると結構否定的な意見もあります。

 新海誠「君の名は。」に抱く違和感 過去作の価値観を全否定している

 これは感想というかニュースサイトに載ってる評論対談ですが。

 

 で、まあ、設定に関しては擁護しきれない粗が多いのは事実というか、

 少なくとも、登場人物みんなLINEやってるデジタル時代に、10日入れ替わって年号の違いに一度も気づかないというのは無理があるだろう、というのはわかります。

 ただ、それでもこの作品に、少なくとも観ている最中くらいは観客を騙し切って泣かせるところまで行ける、という説得力を与えているのは、

 「過去・現在・未来の自分の不連続性」を1つのテーマにしている作品だからで、そういう感覚を持ったことのある人であれば、割と違和感なくのめり込めたのではないかと思うのですよ。

 

 つまり、「今あなたがいるのは2016年9月ですか?」と問われたら、自信をもって、YESと言える。時計を見ればいいし、新聞を買えばいいし、検索すればいいし、人に訊けばいいし、スマートフォンで「きょう」と入れて変換すればいい。

 なのだけど、

 「昨日あなたがいたのは2016年9月ですか?」と問われたら、ちょっと不安にならないですか。

 そういえば、2016年だってはっきり確認した記憶はないような気がする。

 そして、じゃあ、「昨日あなたは女子高生と入れ替わっていなかったと言い切れますか」と問われたら……

 いや、昨日はさすがに無理があったとしても、「5年前にそういうことがあったけれど忘れている」と言われたら……

 みたいな、記憶の曖昧さに揺さぶりをかける映画であるのではないかと。

 

 「ついさっきまで覚えていた君の名を覚えていない」というのも、人によってはなんだそれ痴呆か?って思うのかもしれないけど、

 「ついさっきの自分」と「今の自分」の不連続・断絶の話をしている、と考えると、納得がいくような気もして。

 

 同じことが、地方と都会(東京)の距離の話にも言えて。

 世界五分前仮説とかシュレディンガーの猫とか、それらしい実験はいろいろありますけど、

 人は、「今」「目の前にあるもの」しか認識できなくて、あとは存在するかどうかなんてわからないんですよね。

 自分の真後ろが真っ暗闇で、振り向いた瞬間に形作られて……というような妄想。

 だから、実際に糸守が存在するかしないかも、わからない。あるかないかを断言できない。

 日常の延長線上にあるかもしれない非日常。こういうのをローファンタジーとかエブリデイマジックとか言うんでしたっけ。

 その日常と非日常の接続に必要な理屈を、ほぼ「記憶」だけでほとんどの観客に納得させたというのは凄いことじゃないかと思います。……まあ、一応神社とか神様とかもありましたけど。

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 それに付随して、全体的にシチュエーションありきというか、ご都合主義的な展開が多かった、というのもわかるのですが。

 

 あの作品の時間軸がどこにあるかといえば、最初と最後のシーン、つまり「8年後」から過去を見ていると考えるのが自然で、

 つまり、「あのストーリーが成立したからこそ遡及的に語られる物語」なんですよね。

 それは例えば、「ドラクエの勇者はなんで全員周りにスライムしかいない恵まれた環境に生まれるのか」の回答が「それ以外の街に生まれた勇者は旅立ってもすぐに死ぬから語られない」みたいな説と一緒で、

 無数の並行世界がたくさんあって、その中にはひょっとしたら、入れ替わり3回目くらいで年号の違いに気づいて、わざわざ口噛み酒で2度目のトリップをするまでもなく一発で彗星災害を未然に防ぐルートだってあったかもしれない。

 逆に、瀧が糸守を探しに行こうと考えるほどの執着を持たずに、あっさり忘れてしまうルートもあったかもしれない。

 その中で、たまたま結果論としてああいう素敵なお話が生まれたから語られているのだ、という解釈をすると、すっと飲み込めるような気がします。

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 あと、ハッピーエンドであるべきかどうか……というのは1つの問題で、

 まあ私は過去の新海誠作品を観てないから何とも言えないんですが。

 会えないまま終わる、最後の最後で階段ですれ違っても振り返らない、気づかない……みたいな切なさも、それはそれで綺麗な終わり方だと思います。

 ただ……これは、もう好みの問題になると思うのですが、個人的には、

 「物語の中盤ではいろいろなことが起きるけど、最終的にはハッピーエンドに収まる」方が好きなので、君の名はそういう終わり方でとても嬉しかったです。

 というか、最後の、瀧が大学生になってからの、

 テッシーやサヤちんに気づかない、名前も覚えていない、5年前の記憶さえ曖昧、階段でも一度気づかずにすれ違う……

 という一連のシーンが、会えないエンドを暗示しまくっていて、

 それだけ焦らしたんだから最後は会えてもいいんじゃない?という。

 会えないパターンの覚悟はできてたし、そのパターンで終わった時の悲しみは十二分に想像してたので、もう実質両方味わったような気分というか……。

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 あと、個人的に、物語でも現実でもなのですが、私が一番苦手な描写が、「取り返しのつかない失敗・二度と戻らない破壊」で。

 そういう意味で糸守が災害で全滅、というのは、私の一番苦手な展開で、

 それが何の前触れもなく訪れたので(予想できた人は予想してたのだと思いますが、私は少しも予想できてませんでした)、

 その衝撃が大きすぎたというところがあります。

 それに対してタイムループでなかったことにする……というのは、ご都合主義と言われたらそれまでですけど、

 個人的にはやっぱりファンタジーでもいいからそういう夢の見せ方をしてくれて良かったなと思います。

 

 単純に私が被災経験がないせいで、あの映画を観て「震災のメタファーだ」みたいなことを全く思わなかった、というのもあるのですけど。

 あれを震災映画として観た時に、「過去に戻って震災自体起こらなかったことにする」という解決法が、どうなのか、というのは、別の観点で語られるべきものかな、と思います。

 ただ、あの映画は根本的に「瀧と三葉のお話」という、いわゆる<セカイ系>で、災害の悲劇を未然に防ぐ、というのは、あくまで三葉を守る上での副次的な要素というか。もちろん、滝が「最悪、三葉以外は死んでもいい」とか思っていたとは思いませんが。

 

 それと、災害がなくなったとはいっても、

 糸守の人たちは家を失って、あの村の様子だとたぶん保険とかも入ってないし銀行もなかったんじゃないかって考えると、あの彗星災害の後の暮らしはたぶん相当苦しいものになったのでしょう。

 テッシーなんて一生あの村で生きていくつもりだったのが、東京で結婚式挙げようとしてるっぽいし。

 

 そういう負の部分をすっ飛ばしているのは、決して震災を美化しているからではなくて、やっぱり「瀧と三葉の物語だから」なのだと思いました。

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 ところで、展開が不自然すぎ、みたいな突っ込みはだいたい一理あるなあと思うのですが、

 「瀧と三葉がお互いを好きになった理由がよくわからなかった」という感想だけは「おいおい、マジかよ……」という驚きしかなくて目からウロコでした。

 いやいや、ちょっと待て。

 だって、あんな可愛い同年代の子が、あんな可愛い日記を書いてくれていて、しかも村のルールと人間関係で悩んでいて東京に憧れているっていう弱いところまで知ってしまって、不可抗力的に「頼る」「頼られる」という関係性を相互に持っちゃって、

 そんなの好きにならない方がおかしいって、絶対。

 うまく説明できないけど、今まで付き合ったこともなくて恋に飢えてる中高生なんか特に、運命を感じちゃったらその時点で好きになるものではないかと。

 まあ他の人は知らないけど少なくとも私は瀧くんの立場なら確実に堕ちてる。そこはストーリーに何の違和感もないと思いました。

 

 ちなみに小説版、Kindleだと今は半額セール中なんですよ。速攻で買いました。

 あとAnother Sideも買いました。

 Another Sideは瀧・テッシー・四葉・そして三葉の父(名前が思い出せない)が主人公になっていて、本編とリンクしつつも新しい情報があってさらに楽しめます。

 どちらも映画の補完として最適です。映画観た後で読むのが一番いいと思います。

 小説版を読んでいると自然とキーシーンで映像や声が脳内再生されます。何度でもあの映画を追体験できるようになるので、最高です。

 でも映画ももう1度観に行きたいなあ……とも。

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