面白くない情報は価値がない? 地下室の転売NO記事の話
前置き:別にまた炎上したくてわざわざ首を突っ込むわけではないです。ちょっと気になっただけです。
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転売NO、でも複数買いは推奨?
少し前に、PCデポ騒動でヨッピー氏がおもしろライターから社会派ライターにジョブチェンジを図ろうとしていましたが、
今度は地下室TIMESさんが社会派な問題に切り込みしたようです。
で?"チケット #転売NO "はファンたちに何を求めているの?本当に偉い人にインタビューしてきた。
ここまでくるともう普通にネットメディアですね。
そのうちアーティストとの対談記事とか上げるんじゃないでしょうか。今オファーすればフットワークの軽いバンドは喜んで受けてくれそうだし、米津さん×石左さんとか普通に面白そう。SMEは断りそうだけど。
このままネットメディアのブランドとして成長していって、そのうち「音楽地下室TIMES」「コミック地下室TIMES」「お笑い地下室TIMES」みたいに派生していって……あ、これ言うと叩かれるやつですね。止めます。
内容は普通にわかりやすかったし、気になってたところも説明されてて良かったです。文句とかはありません。
ただ、「需要が供給上回ってるんだから価格上げろ」に対して「チケット価格を上げることで中高生が楽しめなくなるのが困る」という主張をするなら、
転売サイト運営の「じゃあCD先行抽選商法とかやるなよ」っていうツッコミがますます説得力を持ってしまう問題が。
高額転売反対と意見されているアーティストさんたちは、まさか握手券商法やCD購入でライブ抽選みたいな景表法ギリギリの高額課金商法はやっておられないですよね
— K. Nishiyama (@ashikagunso) 2016年8月23日
あの記事のオチにこれを持ってこられると「なるほどこの人正しいこと言ってるじゃん」と思ったんですが、この矛盾は次回の記事で解消してくれるのかどうか。
実際、私も普段はバンドのCDはアルバムしか買わない(シングルはiTunesでDL購入する)のに、今回はライブ行きたくて『LOSER/ナンバーナイン』買っちゃったんですけど、
これ、チケット代1000円値上げするのと何がどう違うんですかね……。
このへんの矛盾について、バンドじゃないけどアイドルのSTEREO JAPANのプロデューサーの話が結構面白いです。
※STEREO JAPANは今年6月、「CD発売・リリイベ・インストアイベント卒業」を宣言しました。その時のインタビューから抜粋。
発表時のライブが特殊な会場を押さえたために場所を借りるだけでお金がかかったものの、売上は悪くなかった、という話からの流れです。
ーーVIP席とかの価格設定が成功して。
水江P : そうですね。普通アイドル・イベントって2,500円とか3,000円くらいのライヴ・チケットだと思うんですけど、そもそも1番安いチケットが4,000円、その上が1万円、1万5000円、2万5000円ってしたら、高額なチケットが全部完売したので。この先、CDを出さないとかリリイベやらないみたいな話もそうなんですけど、あれって結局CDを作ると、作ったお金に見合うように、もっとプラスして稼がなきゃいけないから、毎週リリイベやって、女の子たちも疲れ果てて、観てる側も飽きるみたいなのがあるかなって思って。
ーー今オリコン・チャートでベスト10に入ってもどれぐらいの宣伝になるのかって考えだしたらキリがないですからね。
水江P : ほんとですよ! 火曜発売とか発売日をズラして。
ーーそれで「ついにベスト10に入りました!」なんて大騒ぎして、どんな意味があるのかなって。
水江P : ぜんっぜん意味ないと思います(笑)。おんなじ業界の人とかと話してて、たまにそういう人いるんですよ。オリコン3位だったんでとか、具体例出すわけじゃないですけど(笑)。それがどうにもならないっていうのは数多のアイドルが証明してることじゃないですか。いまは収入源としてCDを出してリリイベがあって、僕らはお金が入るっていうのはあるなと思うんですけど、でもそれは紐解いていくと、お客さんはおんなじようなセトリのおんなじようなインストアでいっぱいCDを買わされてるわけで、もっと気持ちよくお金を払える方法ってないかなっていうのをずっと思ってて。同じお金を払うにしても。
まあ、バンドはアイドルよりは複数買いするファンは少なくない……と思いますが、でも初回限定盤ABとかはやってるバンド割と多いですよね。
リリイベとかインストアもないけど、ライブ限定グッズの価格設定は同じようなものですし。
ファンのため、という理想は、それが達成さていれなければ意味がなくて、その理想に反してファンのためになっていない現実があるなら、やはりやり方が間違っているのでしょう。
現実問題として、高額転売にお金を出せるファンがいるわけで、それなら最初からお金のあるファン向けのVIPチケットを別に作るとか、
中高生に来てほしいと思うなら、チケットの値段上げる代わりに入場時に学生証提示でキャッシュバックする(ドリンク無料とか)システムとか、いろいろ考えようはあると思うんですよね。
そういう工夫をせずに「音楽業界の人たちは音楽好きだから!」って理想論を語って、その理想を悪い人に食い物にされてますっていう敗北宣言に、何の意味があるんだろう、とは思います。
まあ、それは元の記事でも最初に「その中で今やれること」みたいに言ってるので、いろいろな問題があって実現できないのかもしれませんが……。
面白くないと読まれない、でいいのか
で、まあ内容はそんな感じとして、ここからは転売話から離れます。
記事の中で何度も何度も、「いい話なんだけどどうせみんな読まないよね?」って繰り返してて、まあ実際その通りだとは思うものの、
その風潮が加速していくのってどうなのだろう、というのがちょっと気になりました。
地下室TIMESもそうだし、ヨッピーの書いてる記事(「Microsoftが変わった」って言われてるけど本当なの?よくわかんないから直接聞いてきたとか )もそうだし、極端な話はちまJINハム速などのアフィブログがやってることもそうなんですけど、
「ニュースを面白おかしくわかりやすく伝える」ことが至上命題になりすぎてないか、と。
コンテンツが供給過多な現代インターネットにおいて、ユーザーは自分の好きなものだけを消費しますから、当然、面白くない固いニュースなんて読みたくない・見たくないし、自分と価値観の違う意見なんて目に入れたくないと思うんですが、
本当は、この社会で、茶化しちゃいけないこととか、真面目に考えなきゃいけないことって、少なくないと思うんですよ。
それなのに、将来を左右する政治の話題も、差別や格差などの社会問題も、何もかもを面白コンテンツとして消費して、そうでないものは切り捨てて、
真面目に何かを論ずることはダサい、ちょっと斜に構えた態度で茶々を入れることがカッコいい、みたいになっていくのは本当に良いことなんでしょうか。
いや、別に「長くて真面目な記事は読みたくない」って個人的に思うのは自由だし良いと思うんですけど、「長くて真面目な記事なんて読みたくなくて当たり前」「まだ真面目なニュースサイトなんか追って消耗してるの?」みたいな態度を大っぴらにすることが是とされるのはおかしいというか、
乱暴に言えば自分たちが馬鹿であることを堂々と偉そうに掲げるのをやめろってことです。
今話題になってるキーワードだと反知性主義ですかね。トランプ氏が支持されてるアレです。
白黒はっきりつけてほしい願望
結局、社会にはびこる問題なんて、わかりにくくて複雑で、0か1かで語れないグレーゾーンがほとんどで、長々とした論理と理屈と、それを語るために生まれた専門用語を抜きには語れないに決まってる。
0か1であってほしい、明確な結論を出してすっきりさせてほしい、という欲求を持ちたくなる気持ちはよくわかるのですが。
チケット転売問題でも貧困JK問題でも豊洲移転問題でもなんでもいいけど、これは100%こっちサイドのあいつが悪い!死ね! みたいに白黒はっきりつけられるほど現実の物事は単純じゃない。
「転売屋は暴利を貪る悪だ!禁止しろ!」で済めばいいけど、その本人確認システム整備の方がお金がかかるかもしれないし、法律的にはむしろ禁止する方が問題だし、そもそも「転売屋」という特定の集団があるわけではないし。
貧困JK問題で言えば、「社会の最底辺クラスではないけど定義上は間違いなく貧困」というグレーな結論では盛り上がらないから「NHKの捏造!JKは嘘つき!住所特定自宅凸で懲らしめよう!」となったわけで。
そういう、現実世界に蔓延する複雑でわかりにくい問題を、
簡潔に140字でまとめました! ユーモアたっぷりの4コマ漫画にしました! などという人たちによって翻訳されたものは、
必ず事実のどこかが削ぎ落とされて歪められている。
それは絶対に言い切れます。大小の差はあっても、意味の変わらない翻訳・言い換えなんてどこにもありません。
「馬鹿な皆さんのためにわかりやすくシンプルに言い換えましょう。これをすれば社会は良くなります!」などと言う政治家は嘘つきに決まってます。それをやって支持されてるのがトランプ氏とか安倍首相とかなんですが。
で、それは馬鹿な私たち一般人にとって良い傾向のように見えて、実際には、頭の良い人たちに都合の良いように事実を歪めることができていて、当たり前のように煙に巻かれてしまう。
そうならないために、ああいう「全ての情報をエンタメ化しないと気が済まないサイト」を過剰にもてはやさない方がいいと思うんですよ。って、まあ、ここのブログを読みに来る人に言っても仕方ないと思うんですけど。
最後に
と、ここまでこれをインターネットの普及によって起きた問題であるかのように主張をしてきたわけですが、
そういう情報の翻訳の仕方、元々の文脈を無視したエンタメ化って、
そもそも、テレビのお昼のワイドショー(『アッコにおまかせ!』とか)であったり、スポーツ新聞やゴシップ雑誌がずっとやってきたことなんですよね。
大衆心理として昔からあるのだから、インターネットと安易に結びつけるのは難しく、ただプラットフォームが変わっただけの話かもしれない。
さらに、地下室TIMESと音楽ナタリーのどちらが読者が多いか?と言われたら当然後者だし、はちま寄稿とYahoo!ニュースのどちらの影響力が強いか?と訊かれたら当然後者だし、
私が前者を過大評価しているだけで、実際には地下室TIMESやヨッピーやはちま寄稿は別に現在のメインストリームメディアではないんですよね。
……はちまと他2つを一緒にするのもちょっとどうかなあという気もしますが。
だから、「こういう面白い情報を求める人もいれば、そうでない人もいる」というだけの話で、もしその影響力の拡大を問題視するなら、その前に統計を取らないといけない。
さて、お気づきの通り、
この最後のパートの存在によって、私は記事の説得力を下げ、明確な結論を出しにくくしています。
地下室TIMESやアフィブログの批判をしたいだけであれば、書かない方がいい内容です。
別に、それまでの本文でも嘘はついていませんし、偏っていたりしても、個人の意見だから何の問題もありません。
だから、この記事が、面白さ・読みやすさを重視するのであれば、書くべきではない。
そして、そういう「面白くないもの」を削ぎ落とす、というのが、地下室やヨッピーやその他のアフィブログがやっていることの一部です。それが全てではありませんが。
それを批判しようと思うと、このような自己矛盾を抱えてしまう、というのが、リベラル思想が慢性的に抱える問題点なのだろうなと思います。
特定の目標を掲げる人たちに対して、ブレーキ的な立ち回りをしようと思うと、どうしても歯切れが悪くなってしまうんですよね。
別にこのブログのそういう面が評価されてほしいとは思わないものの、こんな感じで正直に手の内を明かすメディアの価値が上がってくれればいいなと少し思うのですが、まあ難しいのでしょうね。方法論として間違ってるので。