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「nexUs vol.3」が良かったので、今のヒトリエは過去最高だと思う

 9/11、恵比寿LIQUIDROOMで開催されたパスピエとのツーマンライブ『nexUs vol.3』。

 それがあまりにも良すぎたので、ひょっとしたら、ついにヒトリエの時代が来るんじゃないか、と思いました。

 結成から今までで、内部的にも外部的にも今が過去最高の状態ではないでしょうか? どうでしょう?

 という記事を書いていきます。

 

 ちなみにヒトリエはいつだって最新が最高だって思ってる方もいるかもしれませんが、

 私は以前『DEEPER』の頃のヒトリエを全否定した人ですから、全くそうは思いませんし、

 基本的に2015-16頃のヒトリエが微妙だったことを前提に書いていくので、それが許せない方はこのへんで読むのを止めて左上の「完了」をタップしてください

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『nexUs vol.3』でヒトリエの反撃が始まった

 もう1週間経ってしまいましたが、『nexUs vol.3』。

 行った人はわかると思いますが、セットリストが最強でした。

 前半戦でパスピエが本気のセトリで十二分に温めた場を、25分の休憩でしっかり冷やして登場したヒトリエ。……いやあの交代さすがにちょっと長すぎませんでした? ここだけ今回のライブ唯一の不満です。その代わり、ヒトリエファン名物のグダグダアンコールの途中で強引にメンバーが出てきたのは素晴らしかった。

 そこから一瞬で場を沸騰させ、終始ハイペースで飛ばしていきました。終わった頃にはヘトヘトだった。

1. 終着点
2. インパーフェクション
3. ワールズエンド・ダンスホール
4. イヴステッパー
5. るらるら
6. MIRROR
7. サークル サークル
8. アンノウン・マザーグース
9. シャッタードール
10. 踊るマネキン、唄う阿呆
11. ワンミーツハー
12. センスレス・ワンダー
13. SisterJudy
14. モンタージュガール
15. カラノワレモノ

 過去に出した全CDから1曲以上が入っていて、ボカロ時代の『ワールズエンド・ダンスホール』や「ルームシック・ガールズエスケープ」の初期の名曲をしっかり押し出しながら、『ワンミーツハー』『イヴステッパー』などもちゃんとライブ映えする形で収まっている。もはや息つく暇も与えないほどに、確実に攻撃力を増していることがわかるセットリスト。

 攻撃力が高すぎるあまり、久々のライブだったらしいwowakaさんが後半若干声やばくなってましたが、それを補って余りある圧巻のパフォーマンスと会場の熱気。控えめに言って最高のライブでした。

 このライブで私は、ヒトリエがとうとう反撃に転じたのだと確信しました。

 メジャーデビュー以降、なかなか次のステージに進む機会を掴めなかったヒトリエの、反撃です。

 

ついにwowaka=ヒトリエが世間に見つかり始めた

 そもそも、結成されてからのヒトリエというのは、その期待値や評価の割に「ブレイクしそうでなぜかブレイクしきれない」という状態でした。

 

 例えば、2012年冬に『ルームシック・ガールズエスケープ』を出した時点で、もう少し話題になっても良さそうなのに、自主製作で冬コミということもあってか一部にしか気づかれず。

 2013年秋に『SisterJudy』のMVが公開、ついにwowakaさんの楽曲がインターネットに帰ってきたものの、

 『アンハッピーリフレイン』から2年半という期間が微妙に空きすぎたのか、同時期のカゲプロやkemu VOXX人気が凄すぎたからなのか、ともかく動画は全く伸びず、ニコニコ動画ではいつの間にかMVが非公開化。

 その後、数回のワンマンライブを成功させて2014年にSMEからメジャーデビュー。『センスレス・ワンダー』『イマジナリー・モノフィクション』を連続リリースするも、セールスはあまり奮わず。

 

 2015年にはミニアルバム『モノクロノ・エントランス』を出し、ワールズエンド・ダンスホールを彷彿とさせるwowaka濃度の高い楽曲『トーキーダンス』でニコニコ動画に再上陸。

 過去の『5カウントハロー』なども一緒に投稿するも、やはり伸び悩み、この時の動画もいつの間にか非公開化。

 次の『シャッタードール』では早くもニコニコへの投稿を止め、実質カップリングなしでありながらフォトブック付で2700円という挑戦的な商売に手を出してAmazonレビューでも賛否両論。

 3rdシングル『ワンミーツハー』は初の深夜アニメタイアップ。ボカロファンと親和性の高いアニメ主題歌ということで、いよいよ話題になるかと思ったのですが、

 そもそもディバインゲートのアニメ自体が全然話題にならない、「ガンホーなら先にパズドラアニメ化しろよ」ってみんな言ってた、その少し前に話題になった『東京喰種』に引っ張られて「腹から声出てない」とか言われる、リリース時のインタビューでwowakaさんがディバゲに一切触れずに曲のテーマや世界観を語るので後付けタイアップの疑いが強まる、

 など、いろんな理由が相まって、全然見つかりませんでした。

 あと、せっかくアニメファンが買ってくれるはずの『ワンミーツハー』が、カップリングなしの代わりに各パートを抜いた音源とかいう既存ファンしか喜ばない特典だったのも謎でした。

 続く『DEEPER』では『フユノ』のMVをフル尺で投稿しないという時代錯誤な手を試してYouTubeキッズの反感を買ったり。

 ……こうして改めて並べてみると、2015年のヒトリエのマーケティング戦略ほんと地獄ですね。

 せめて『ワンミーツハー』のPVも継続してwowakaさんのアカウントでニコニコに上げていればもう少し話題になっただろうし、「ディバゲOPに中毒になる動画」なんかが伸びることもなかったと思います。

 

 wowakaさんの最盛期の人気を考えても、順風満帆に進めばヒトリエが今の米津さんくらいの位置にいる可能性もあったはずだし、

 その演奏技術も曲の完成度もデビュー当初から一貫して高く、一個何かが違っていたら爆発的にブレイクするポテンシャルがあったのに、何かが噛み合わなくてそうはならなかった。

 

 そんなヒトリエですが、『アンノウン・マザーグース』でついに、当時のボカロファンに見つかり始めた気配があります。

 初音ミク10周年に合わせた「6年ぶりのボカロ新曲」というインパクトは絶大、SisterJudyとトーキーダンスで過去2回復活していた過去は闇に葬られ、無事「wowakaさんが帰ってきた!」感を演出することに成功しました。

 ……いや、ディスってないですよ、ほんとに。というより、SisterJudyの時にこのくらい話題になることを期待していたファンとしては、4年越しに願いが成就したような感覚ですらあります。

 

 YouTubeの動画の統計情報はどうやらこの前のリニューアルで消えてしまったようなので、『SocialBlade』を利用したチャンネルの統計情報になりますが、

 スケッチ

 グラフだと何となくしかわかりませんが、左端の数値に注目。

 8/22時点で33500人だったチャンネル登録者が、9/12現在43320人。だいたい1.3倍になったことがわかります。

 単純計算でこの比率を適用させれば、今ヒトリエを知ってる人の4人に1人が「アンノウンマザーグース」で見つけた人、ってことになります。

 ニコニコでこれきっかけにヒトリエを見つけた人も含めれば、むしろもっと多いかもしれません。

 この5年間、ボカロ時代からのヒトリエファン(というか私)は「当時あんなにいたwowakaファンは何でヒトリエ聴かないの!?」ってずっとキレてましたが、

 ここにきて、ついにヒトリエが当時のwowakaファンに見つかり始めたのではないでしょうか。

 

 そしてもちろん、この5年間ヒトリエが何もしていなかったわけではなく、元々高かった演奏技術も表現力も結成当初より上がっていることは言うまでもありません。

 wowakaというネームバリューで最初から過度に売り出さず、「地に足の着いた活動」をしてきたこともヒトリエの戦略の1つだったことは本人たちも最初から語っています。

 結成初期(メジャーデビュー付近)のプロフィールには

地に足の着いた活動を、との思いから、敢えてインターネットとは一定距離を置き、ライブ活動・製作期間を経て、2012年12月に自主製作ミニアルバム『ルームシック・ガールズエスケープ』、今年4月に自主製作EP『non-fiction four e.p.』発表。

 という一文がありました。現在はレコチョクのアーティストページに残っています。

 おそらく、そういう活動ができるレーベルとタイミングを選んでデビューしたのだと思います。

 米津さんが『YANKEE』を出した2014年頃、「曲の人気に対してライブの実力が伴っていない」ことに苦しんでいたのと同様の問題が結成当初のヒトリエにもあったはずです。

 

 それによって短期的に見ればビジネスチャンスを失ったかもしれず、2014年のメジャーデビュー後の初速の鈍さだったり、2015年の迷走だったりはちょっとネットから距離を置きすぎたことの反動を喰らっている感じもありましたが、

 ここにきてようやく、「現実逃避P」という大きくなりすぎたブランドを、生身の人間として引き受ける状態が、いろんな意味で整ってきた、

 そういう最高の状態で『アンノウン・マザーグース』が注目されていることは、結果的に最高のシナリオになるかもしれないと思うのです。

 

「wowaka再評価」の流れが出てきた

 2010年から2011年、VOCALOID界隈の頂点にいたwowaka、ハチ、DECO*27という3人のうち、

 DECO*27さんは多少間を空けながらもVOCALOID楽曲を定期的にリリースし、『39』『ストリーミングハート』『ゴーストルール』とメガヒットを定期的に生んでボカロ界隈での存在感を失わずにいます。

 ハチさんは2012年という早い時期に、BALLOOMレーベルから米津玄師としてアルバムを出し、リードトラックの『ゴーゴー幽霊船』がしっかりヒット、その後『アイネクライネ』の話題性抜群なタイアップ、『ドーナツホール』でのボカロとのリンクなどもあって、客層を順調に拡大し、ついに武道館公演まで決定させました。

 そんな2人と比べると、wowakaさんはこの6年間、ヒトリエとしてはなかなか陽の目を浴びずにいたと思っています。

 その背景に、wowakaさん自身がDECO*27さんとのインタビューで触れていますが、「wowakaっぽい曲」がニコニコに広まりすぎていたこともあるのでしょう。

 『ワールズエンド・ダンスホール』を聴いていた人たちは、次にヒトリエではなく『六兆年と一夜物語』『セツナトリップ』『脳漿炸裂ガール』などのボカロ曲に流れ、ヒトリエの方がなぜか「ボカロっぽい」「バンドの真似事」などと叩かれる始末。

 

 ところがそれから5年が経って、あの頃のボカロを聴いていた世代が作り手に回るようになりました。

 さらに言えば、2012年頃の、”「再生数を伸ばしたい」「有名になりたい」という意志を持って”「wowakaみたいな曲」を書いていた人たちとは違う、

 当時のwowakaさんに純粋に憧れを持って入ってきた世代であったり、同世代でwowakaさんをライバル視しつつ認めてきた世代が、現役として発信力を持ち始めています。

ゆーまお 偏見みたいなものを感じることもあって、それは「クソ食らえ」って思ってますけどね。曲を聴いて「ボカロっぽいね」って言われたりもするんですけど、それは順番が逆だったりもするから。この人(wowaka)のメロディがボカロのシーンに影響を与えたわけですからね。「ボカロっぽい」ではなくて、「wowakaっぽい」んですよ。

ヒトリエ「イマジナリー・モノフィクション」インタビュー (3/3) – 音楽ナタリー 特集・インタビュー

米津「でもwowakaさんが後続に残した影響は計り知れないものがあると思ってて。今のボカロ界隈の曲もそうだけど、必ずどっかにwowaka要素が潜んでるんですよ。それってもの凄いことで」
▶あの譜割とリズム感は発明だもんね。実際、あの前後で音楽の形が変わったし。
米津「だからヒトリエもボカロっぽいとか言われたりするじゃないですか。その度に『逆、逆!』って思う。wowakaがボカロを作ったんだっていう感覚は、やっぱり凄くありますね」

MUSICA(ムジカ) 2015年 03 月号 – 米津玄師×wowaka(ヒトリエ)、新時代を切り拓くふたりの待望の対談が実現!!

 2014~2015年には本人や本人を含むインタビューでこのような発言が出てきてはいましたが、

 いくら外野が「ヒトリエがボカロっぽい」と言おうと、実際に影響を受けて作っている人たちはそうじゃないんだってことをもちろん知っています。

 

 初音ミク10周年に合わせてナタリーで公開された「ボカロP 34人アンケート」で、多くのPが一番好きな曲に「自分がボカロを始めるきっかけ」としてryoさんやkzさんをあげる中、

 GUMI Englishの全編英語曲『ECHO』で話題となったCrusher-Pが『ワールズエンド・ダンスホール』をあげていることは象徴的。米津さんも前述の対談で『ワールズエンド・ダンスホール』を特に褒めていましたが。

 ナユタン星人さんの『リバースユニバース』で、wowakaさんの曲だけ「ラバーズ」「ローリン」「ダンス」と3曲入ってるのも……これは贔屓目に見すぎかもしれません。

WOWAKAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

— Crusher-P@Again (@CCrusherP) 2017年8月22日

 これらは全て『アンノウン・マザーグース』に対する反応。(私の探せた範囲なので、おそらくもっと他にも反応している方はいたと思いますが)

 一通り探した中でCrusher-Pの反応は笑っちゃったけどw

 

 音楽に限らず、「知名度に対して同業者や著名人からの評価が高い人」って、ワンテンポ遅れながらもいつか絶対に売れるじゃないですか。映画で言えば新海誠とか、芸人で言えば千鳥とかハリウッドザコシショウみたいな?

 ボカロ界、音楽シーンにおけるwowakaさん/ヒトリエの存在っていうのはそういうレベルのものだと思うので、絶対第一線に上がってくると思うし、そうなる道がここにきて開けてきたように見えます。

 

「wowaka」と「ヒトリエ」の間の溝が埋まってきた

 そして、「nexUs vol.3」は、そういったボカロ時代のファンに真正面から向き合うという決意表明でもあったように思います。

 

 合間のMCで、ナタリーでのDECO*27さんとの対談にも軽く触れつつ、wowakaさんが「次は新曲をやります」

 という言葉から『アンノウン・マザーグース』が始まった瞬間は、間違いなくこのライブのハイライトだったと言えるでしょう。

 あの、wowaka名義の初音ミク曲である『アンノウン・マザーグース』を「(ヒトリエの)新曲です」という言い方で紹介したこと、

 それ自体がヒトリエの一つの歴史的なポイントとして記録されるべき瞬間でしょう。

 

 2011年末に前身の「ひとりアトリエ」として結成されてから、特に『WONDER and WONDER』『DEEPER』あたりまでのヒトリエの歴史というのは、ライブから”wowaka色””ボカロ色”が消えていくプロセスでもありました。

 最初は「ドキ生R」などのボカロPバンド主体のライブに出ることが多く、『ワールズエンド・ダンスホール』『ローリンガール』『アンハッピーリフレイン』『プリズムキューブ』がほぼ必ず演奏され、オリジナル曲として『るらるら』や『カラノワレモノ』が入る程度。

 そこから、ルームシック、non-fiction、センスレスワンダー、イマジナリーモノフィクション……とオリジナル曲が増えていき、アンハピやプリズムが外れ、アンコールの定番だったローリンガールも外れていき、ワールズエンドも演奏されないワンマンライブも増えていきました。

 

 楽曲としても、『ルームシック・ガールズエスケープ』から『イマジナリー・モノフィクション』まではボカロ時代の延長と言えるスタイルで、wowakaさん本人も「楽曲ごとに一人の女の子を主人公として設定する」というボカロ時代の作風を踏襲していると語っていました。

 この作り方が行き詰まり、スランプ状態になりながらもメンバーの協力の元で生まれたのが『WONDER and WONDER』で、その後『モノクロノ・エントランス』という反動を経ながら、

 『DEEPER』『IKI』と、徐々にバンド全体で作っていく、ボカロ時代のwowakaさんが作り得ない曲がどんどん出てくるようになりました。

 

 それは、ヒトリエを「wowakaの作った曲を演奏するだけのバンド」と揶揄する見方への反発が一つの理由だと想像しています。

 「ヒトリエはバンドの真似事」「wowakaのワンマン経営、他のメンバーの影が薄い」などとぶった切る悪名高い地下室TIMESの記事が上がったのが2014年6月。

 ちょうど『イマジナリー・モノフィクション』『WONDER and WONDER』の間にあたりますが、これ以降のヒトリエはどんどん「バンドらしいバンド」のスタイルへと進んでいきます。

 同時に、「wowakaっぽい曲」「ボカロ時代の曲」を安易に期待するボカロ時代のファン、

 ライブ後のグッズ手売りやCD特典アンケートのたびに毎回ヒトリエ版ワールズエンドダンスホールの音源化をしつこくお願いする私のようなボカロゾンビを追い払いたいという気持ちもおそらくあったはずです。

 wowakaさんにとってボカロ時代の思い出、またはボカロに対する印象が、必ずしもポジティブなものばかりではなかったことも関係しているのかもしれません。

 

 そのwowakaさんが、wowaka名義の『アンノウン・マザーグース』を、「ヒトリエの新曲です」と紹介して、ライブで演奏した。

 ヒトリエとwowakaをきっちり分けてほしいと思っているファンの不満もあったようですが、

 私個人としては、ついにwowakaさんが、ヒトリエでwowaka曲をやることへの抵抗を克服した、という意味で、歓喜の瞬間でした。

 wowakaさんはヒトリエでボカロ曲をやりたくないんじゃないか、未だにワールズエンドダンスホールやローリンガールでフロアが盛り上がることは複雑な心境なんじゃないか、という不安は個人的にあって、おそらくその推測は全く外れてもいないだろうと勝手に思っていますが、

 ようやくそこから解き放たれたんじゃないか、という感じがしています。もちろん、その兆候は「DEEP/SEEK」での『プリズムキューブ』や、昨年の「HITORI-[E]SCAPE 2016 tour」から表れていたのでしょうが。

 

 『アンノウン・マザーグース』が、正直これまでのヒトリエ曲と比べても圧倒的に話題になってから初めてのヒトリエ主体の企画ライブ、

 ここで『アンノウン・マザーグース』をやってほしい、と観客が期待していることは、ヒトリエ4人ともおそらく容易に想像がついたと思うし、

 一方でその期待に安直に応えることへの躊躇もきっとあったはずです。

 それ自体が、「wowakaの作った曲を演奏するだけのバンド」というイメージの再演になってしまうし、

 実際ライブ終了後にはそこだけを強調したニュース記事も上がっています。(ヒトリエ、主催イベントでwowakaのボカロ曲“アンノウン・マザーグース”初披露-rockinon.com

 おそらく、2、3年前であれば、こういう「ボカロPのバンド」的な取り上げられ方をすることは避けたのではないでしょうか。

 

 wowakaさん自身が『アンノウン・マザーグース』公開後のツイートで、

ヒトリエでアルバムもフル3枚リリースして、全国をツアーで回れるようになって、
IKIという自分の人生の分岐点みたいなアルバムを作れて、スタジオコーストでワンマンもして。
ひとつ「ああ俺と、このメンバーと、僕らについてきてくれる人たちはきっと大丈夫だ」と思えて。

 と書いている通り、ヒトリエが既に外部からの見られ方でどうこうなる状態を抜け、

 「wowaka」と対置しても全く霞むことのない、1つのバンドとして揺るがない強さを手に入れたからこそ、

 YouTubeに過去のVOCALOID楽曲を投稿して「ヒトリエ/wowakaチャンネル」とする動きがあり、そして今回のライブがある。

 wowakaファン・ヒトリエファンという二項対立ではなく、wowaka/ヒトリエのファンを最大限喜ばせるために、最新曲の『アンノウン・マザーグース』を披露するし、一番盛り上がる『ワールズエンド・ダンスホール』も演奏する。

 wowakaという驚異的なネームバリューを、ヒトリエの圧倒的なライブ力で迎え撃つ体勢が整った。こうなったヒトリエは無敵です。

 

HITORI-ESCAPE に行くべき

 長々語ってきましたが何が言いたいかというと、

 wowakaファンもヒトリエファンも「HITORI-ESCAPE “2×3” TOUR」に行きましょうということです。

 今回のnexUsはキュレーターであるゆーまお発案のセットリストなので、本当に次のワンマンでもしっかりとwowaka/ヒトリエを統合したライブになるという100%の確証はありませんが、

「各会場、Day1を”omote”・Day2を”ura”をテーマとし、僕がVOCALOID時代から、そしてヒトリエとしても、一貫して作品の題材として扱ってきた自らの“表裏”にそれぞれ対峙してステージに立つこと、そしてヒトリエにとって、omoteの部分・uraの部分がどちらも不可欠であるということを今回のコンセプトとしています。omote公演・ura公演、共に通常のリリースツアーとは異なる内容のライブになります。楽しみにしていてください」

ヒトリエが“表裏”コンセプトのツアー開催、東名阪で各会場2DAYS – 音楽ナタリー

 このコメントを見る限り、その方向になるのでしょう。

 

 バンド初の2daysワンマンということで、曲数としても過去最大、当然最近やっていない曲の披露もあるでしょうし、作っているらしい新曲も出てくるはずです。

 楽曲面でも、現状の最新アルバムである「IKI」には、ともすれば『アンノウン・マザーグース』よりも「wowakaらしい」と個人的に感じる『ハグレノカラー』『daydreamer(s)』のような曲が収録されています。もはやそういった区分にもあまり意味がないのでしょうが、きっと遠くないうちに出るであろう次の新譜でも、wowaka/ヒトリエの様々な面が強調される曲が登場するはずです。

 

 私自身、ここ何年かのヒトリエは正直好きになれないと感じる時期も長くて、逆にヒトリエに自分がこうやっていろいろ書いたり思ったりすること自体が嫌がらせのようだし、wowakaさんのツイートなどを見ていてもそういうファンが求められていないという気持ちもあって、なかなか整理がつきませんでした。

 『アンノウン・マザーグース』も、2010年頃のwowakaさんの曲が大好きで、あの頃のような曲そのものを期待していた身としては、正直100点とは言えない部分もあります、

 ただ、ああいう曲になることそのものも、wowaka/ヒトリエの落としどころ……というと言葉が悪いですが、完全にどちらかを捨てるわけでもなく、もはや不可分のものとして、少なくともボカロ時代のファンの手の届かない場所からは帰ってきてくれるようだという、そのことは今回のライブでちゃんと伝わってきました。私がメッセージを読み取り違えていない限りは。

 今のヒトリエは、バンド好きなヒトリエファンだけでなく、ボカロ時代からのwowakaファンでも、それ以外のどんな人であっても、間違いなくその場に来た全員を熱狂させる最高のライブを魅せてくれるバンドです。

 

 そして、記事の最後でこんなことを書くのもどうかと思いますが、今後のことは私にはわかりません。私が語っているのはあくまで「今のヒトリエ」です。

 『モノクロノ・エントランス』で一瞬wowakaっぽさに振れたヒトリエが『DEEPER』でW&W路線に戻ったように、

 同様に、wowakaさんが今後ボカロ新曲を作ることもあまり現実的でない以上、

 wowaka/ヒトリエが高度に融合している今のヒトリエは、今しか見られないかもしれない、という思いもあります。

 だからこそ私はHITORI-ESCAPEに行こうと思いました。

 

 最大風速の追い風が吹いていて、その風と全く同じ方向に走っている、最高速のヒトリエを観られるのは、後にも先にも『HITORI-ESCAPE』だけかもしれません。

 そういう今のwowaka、今のヒトリエに少しでも興味があるなら、間違いなくその期待を上回ってくるから、絶対にHITORI-ESCAPEを観に行ってほしい。という気持ちでこの記事を書きました。

 http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010163P0108P002117779P0050001P006001P0030063?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_content=tour

 ……観に行ってほしいけど私の抽選も通ってほしいから、先行抽選申込は明日(9/18)までだけどこの記事を読んだ人は一般発売でお願いします!笑

 いやこんだけ熱く書いといてチケット落ちたらショックだなー。それはそれで仕方ないと思ってますが。

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