フラワー・ストーリー‐本編 15年前

フラワー・ストーリー 第13章

それから1時間ほどして、ようやくその男は目を覚ました。 「あ、お前たちは!」  そういって、銃を構えようとするが、銃はない。  銃も剣も、すでにめぐみが取り上げてあった。 「あんたはもう勝ち目が無いの。  あ~あ、戦う気が無いなら解放してあげようかと思ったけど、この分じゃまた兵士に戻って情報を売り渡しそうだから、殺しちゃうか」  めぐみがあくびをしながらそういった。 「それだけは、やめてくれ!お前たちの仲間になるから、助けてくれ!!」 「へぇ、仲間にね……真衣たちはどう思う?」  めぐみは私たちに意見を求めてきた。  最も、めぐみの目的は意見を求める事より、焦らす事でこの男を懲らしめようとしてるんだと思うけど……。 「別にいいんじゃない?事情を話してくれるなら、だけど」 「あ、そうね。さあ、事情を話してちょうだい。何でアーチ人なのに地球人の兵士をやってるのか」 「ああ、それか?  おれは、少し前に地球人に捕まって、奴隷として働かされた。  でもあまりにきつかったから、絶対に裏切らない、裏切ったらすぐにころしてもいい、という条件付で兵士になったんだ」 「そう。つまり、あんたは地球人に捕まって、アーチに住む全ての人が捕まったり殺されたりしているのに、ただ大変だったという理由でアーチ人を裏切ってたんだ……やっぱり殺しちゃおうか」  めぐみの声には、ほとんど何の感情もこもっていなかった。 「お願いだから、許してくれ!」 「そうねぇ……じゃあ、私たちの目的地に着くまで、あたしたちの護衛をしてもらおうか。それで、もしそこまであたしたちを傷つけなかったら、絶対に兵士に戻らず、ドリームウィングに入るかなんかして地球人と戦う、という約束をした上で解放するよ」  かなり厳しい条件だ。しかし、命を握られているその兵士には、断る事ができなかった。 「わかった……その代わり、地球人を倒したら、あとはどう生きようと自由だな?」 「ええ。それに、そこまで来てくれれば、後は別にドリームウィングに入らなくても、とにかく地球人側につかなければ自由よ」 「わかった……俺の名前は、稔(みのる)だ。よろしくな」  稔は手を差し出した。めぐみは無視して、ぷいっと横を向いた。  あまりにかわいそうなので、私は代わりに握手してあげた。  ……あれ?  何か、不思議な感じがする。  私は、絶対にこの人と会った事はない。  なのに、ずっと昔から、そう生まれた時から、どこかで繋がっていたような……そんな感じだ。  しかし、稔はすぐに手を離したし、私のその不思議な気持ちも消えたので、私は気のせいなのだろうと思った。  それからは、4人での旅となった。  稔は、さすがに男なだけあって、力も強く、なかなか頼りになった。  ただし、稔が簡単にこちら側を裏切るだろう、とめぐみは考えていたようで、なるべく稔の前では秘密を話さないようにしていた。  例えば、私たちの目的、それに目的地などだ。 「もうすぐ(地底の湖に)着くけど、時間はかかるから、用心してね」  などと、常に主語を省くように心がけていた。  それでも、稔が最低限以上の情報を知ってしまうのは避けられない事だった。 「おれは裏切ったりしないよ。おれは一度言った事は必ず守るからな」 「たった今、嘘ついたじゃない」  稔を信用してはいけない。  それはわかっていたが、それでも私はなぜか稔の事を考えると、何か温かい気持ちが流れてくるようになっていた。  私は初め、その気持ちの正体が全くわからずにいた。  しかし、稔と旅を始めて3日くらい経ってようやく、私はその気持ちの正体をおぼろげにつかむ事ができた。  そう、それはまるで、地球人の侵略によって失ってしまった感情が、復活したかのようだった……。 ...

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