フラワー・ストーリー 第13章
それから1時間ほどして、ようやくその男は目を覚ました。 「あ、お前たちは!」 そういって、銃を構えようとするが、銃はない。 銃も剣も、すでにめぐみが取り上げてあった。 「あんたはもう勝ち目が無いの。 あ~あ、戦う気が無いなら解放してあげようかと思ったけど、この分じゃまた兵士に戻って情報を売り渡しそうだから、殺しちゃうか」 めぐみがあくびをしながらそういった。 「それだけは、やめてくれ!お前たちの仲間になるから、助けてくれ!!」 「へぇ、仲間にね……真衣たちはどう思う?」 めぐみは私たちに意見を求めてきた。 最も、めぐみの目的は意見を求める事より、焦らす事でこの男を懲らしめようとしてるんだと思うけど……。 「別にいいんじゃない?事情を話してくれるなら、だけど」 「あ、そうね。さあ、事情を話してちょうだい。何でアーチ人なのに地球人の兵士をやってるのか」 「ああ、それか? おれは、少し前に地球人に捕まって、奴隷として働かされた。 でもあまりにきつかったから、絶対に裏切らない、裏切ったらすぐにころしてもいい、という条件付で兵士になったんだ」 「そう。つまり、あんたは地球人に捕まって、アーチに住む全ての人が捕まったり殺されたりしているのに、ただ大変だったという理由でアーチ人を裏切ってたんだ……やっぱり殺しちゃおうか」 めぐみの声には、ほとんど何の感情もこもっていなかった。 「お願いだから、許してくれ!」 「そうねぇ……じゃあ、私たちの目的地に着くまで、あたしたちの護衛をしてもらおうか。それで、もしそこまであたしたちを傷つけなかったら、絶対に兵士に戻らず、ドリームウィングに入るかなんかして地球人と戦う、という約束をした上で解放するよ」 かなり厳しい条件だ。しかし、命を握られているその兵士には、断る事ができなかった。 「わかった……その代わり、地球人を倒したら、あとはどう生きようと自由だな?」 「ええ。それに、そこまで来てくれれば、後は別にドリームウィングに入らなくても、とにかく地球人側につかなければ自由よ」 「わかった……俺の名前は、稔(みのる)だ。よろしくな」 稔は手を差し出した。めぐみは無視して、ぷいっと横を向いた。 あまりにかわいそうなので、私は代わりに握手してあげた。 ……あれ? 何か、不思議な感じがする。 私は、絶対にこの人と会った事はない。 なのに、ずっと昔から、そう生まれた時から、どこかで繋がっていたような……そんな感じだ。 しかし、稔はすぐに手を離したし、私のその不思議な気持ちも消えたので、私は気のせいなのだろうと思った。 それからは、4人での旅となった。 稔は、さすがに男なだけあって、力も強く、なかなか頼りになった。 ただし、稔が簡単にこちら側を裏切るだろう、とめぐみは考えていたようで、なるべく稔の前では秘密を話さないようにしていた。 例えば、私たちの目的、それに目的地などだ。 「もうすぐ(地底の湖に)着くけど、時間はかかるから、用心してね」 などと、常に主語を省くように心がけていた。 それでも、稔が最低限以上の情報を知ってしまうのは避けられない事だった。 「おれは裏切ったりしないよ。おれは一度言った事は必ず守るからな」 「たった今、嘘ついたじゃない」 稔を信用してはいけない。 それはわかっていたが、それでも私はなぜか稔の事を考えると、何か温かい気持ちが流れてくるようになっていた。 私は初め、その気持ちの正体が全くわからずにいた。 しかし、稔と旅を始めて3日くらい経ってようやく、私はその気持ちの正体をおぼろげにつかむ事ができた。 そう、それはまるで、地球人の侵略によって失ってしまった感情が、復活したかのようだった……。 ...