デスティニー・ダークネス第3巻
デスティニー・ダークネス (3) Overcome destiny! 序章 ドラドル モルディスの中で一番発展しているのが、ドラドルだった。 ここは、王国ではあるものの、王様にはそれほどの権限がなく、基本的には各都市から1人ずつ選び出された10人の代表者による会議によって政治が行われていた。 ドラドルがその武力と財力と科学力で他の国を牽制する事で、モルディスではある程度の秩序と、平和が保たれていた。 しかし、表面上は発展しているドラドルこそが、モルディスで最初に『暗闇』が訪れた都市だった……。 第1章 未来 「……でも、それはあなたが決めた事でしょう?私には関係ありません」 暗いテントの中で、女性が静かに告げた。 「しかし、あなたがこんな未来を予知していればこんな事にはならなかったはずなのに!」 テーブルを挟んで向かい側に座る男が声を荒らげた。 「──私は責任を取りません。さあ、もうお帰りください」 彼女は身じろぎもせずそう言った。 男は最後にその女性を睨みつけると、そのまま荒々しく帰っていった。 「……見通せてたけど、それを言った所で……」 彼女の名はルーラ。 未来を見通す力を持つ、特殊能力者だ。 この世界で言うエスパー……というほどではない。 相手と眼を合わせる事で、「相手が未来に見るかもしれない光景」を垣間見る事ができるのだ。 未来というのは捕らえにくいもので、未来は1つではない。 未来にはいくつかの可能性があって、その未来に関わるものたちのとった行動やその時の思いなどによってそのうちの1つが選ばれるのだ。 もちろんその中には、その人が予想だにしない可能性も含まれていて、(例えばその家の周辺に大地震が起こって家を失う、など)可能性はほぼ無限にあると言える。 もちろん、突き詰めていけば結果はいくつかしかないのだが……。 そして、ルーラたち占い師のできる仕事は、その可能性のうちの1つを見て(または感じて)、それを伝えたり、アドバイスしたりする事だ。 とはいえ、ルーラが感謝される事はほとんどなかった。 ルーラに相談して失敗した人は、大抵ルーラの責任にする。 さっきの人は、転職するかどうか迷っていて、ルーラが転職を勧めた結果、その会社が倒産したという、とても不幸な人だった。 ルーラはそういう未来も見ていたが、現状では満足していないと見抜いたため、そうならないことを祈って転職を勧めたのだった。 そして、ルーラに相談して成功した人は、ルーラの事なんて忘れてしまう。 ルーラにお礼を言いにきた人は、300人以上を見たのにわずか10人ほどだった。 それでも、この能力を活かすほかに、ルーラの考えられる道なんて思いつかなかった。 明日は、ルーラの月に2回しかない休日だった。 というか、そのはずだった。 相談の依頼を受けたのだ。 長く話したいので、定休日に会いたいというのだ。 さすがに断れないので、嫌々ながらもルーラはあってみることにした。 その判断は、間違っていたのだろうか? ルーラは、今でも、悩む事があった。 もし、あそこで断っていたら……。 こんな運命に巻き込まれる事はなかったかもしれないのに……。 第2章 相談 その日、朝からルーラはその人を待っていた。 どんな人なのかは、全くわからなかった。 メールで依頼を受けた上に、そこには相手のことは何にも書かれていなかったからだ。 「……相手の情報は、名前しか知らないからな……」 相手の名前は、ナナ。 おそらく女性だろうが、それ以上の事はわからない。 少しして、ナナは現れた。 女性かと思っていたが、小さな女の子だった。 「あ……えーと……あなたがナナ?」 「そうだよ」 「私はルーラ。よろしく」 「よろしく!」 その感嘆符を聞き取った時、ルーラは何となく思った。 この子とは、気が合わなさそうだな。 「で、何であなたは相談に?」 「実は、少し前から悪夢を見るようになったの。すごく怖い夢で……それで、ルーラのところに相談に着たんだけど……」 悪夢は、心理的な恐怖やストレスから生まれるもの……だったはず。ということは、この子は? 「……あの……あなたは学校でいじめられたりされてる?」 「ううん、全然」 「……そうだと思ったわ。……じゃあ、何か嫌な事とかは?」 「何にも無いよ?」 少し考えて、ルーラは聞いてみた。 「それは……どんな夢?」 「えーと……何か、暗いところに一人ぼっちになってて、そこにすっごく暗い影が出てきて、何か訳のわかんない事を言ってる……」 「それは、怖いの?」 「よくわかんないけど、怖さを感じさせる、って感じかな……」 何か嫌な予感がしたので、ルーラはナナの未来を見てみることにした。 「ねえ、ナナ……私と眼を合わせて」 「いいよ」 そこで、ルーラは真っすぐにルーラを見つめるナナの眼を覗き込んだ。 ──暗い世界──一人ぼっち──何かの影─────────────あれ? そこで突然視界が真っ暗になった。 「何にも見えない……?」 こんな事は、今まで経験した事がなかった。 途中で視界が遮られるなんて。 「ナナ……私の事真っすぐ見てる?」 「うん」 この子は……心を開いていない? いや、まさか。ルーラの予知には、心を開いているかどうかなんて関係ない。 眼を合わせているかどうか。それだけだ。 それだけのはずなのに……。 「やっぱり見えないわ。……でも今日はもう遅いし……じゃあ、来週また来てくれる?」 「もちろん!」 ……やっぱり、この子とは気が合わなそうだ。 ルーラはそう思った。 第3章 謎の死 ナナが訪れた次の日。ルーラはテレビを見ていて、驚いた。 『たった今入ったニュースです。昨夜、ラドルである夫妻が心中を図った模様です。夫妻には女児がいたようで、帰宅した娘が2人の遺体を発見しました。発見された時にはすでに2人はすでに亡くなっていたようです』 そういって、その女児が映し出された。 それは、ナナだった。 話は聞けなかったらしく、顔にモザイクをかけた写真のみ公表されていた。 しかし、その服は、間違いなく昨日着ていた服だった。 「行ってみよう……」 ルーラはナナに聞いた電話番号を元にインターネットで地図をプリントして、急いでテントに〈臨時休業のお知らせ〉と書かれた紙を貼り、リニアモーターカーに乗ってナナの家へと向かった。 ナナは親戚の人に掴まれて駄々をこねていた。 どうやらナナは親戚の人に引き取られるらしいが、ナナは嫌がっているようだ。 ナナがルーラを見つけて叫んだ。 「あたし、ルーラと一緒に暮らしたい!」 伯母と伯父らしき人物が驚いて話し合っている。 「あの方は誰だ?」 ルーラが進み出て、名乗った。 「私の名前はルーラです。占い師をやっていて、ナナと1度カウンセリングをしました」 ...