真っ白なしずく 13年前

真っ白なしずく #6

「でも、どうやって行くんですか?」 姿現しでも使うのかと思っていたのだが、道中に話すという事は、それなりに時間がかかるのだろう。 とすれば、やっぱり魔法っぽく……箒とか?「そうねぇ……」 仙道さんは口をとがらせて少し考え、不意に顔を明るくした。「あ、そうだっ!」 そう言って、トントンと私の肩をたたいた。 すると、「うわあっ!?」 突然視界が暗転した。 暗転というか、渦巻に巻き込まれるように回転する。 まるで旅の扉でも使ったみたいだ。 なので案の定、すぐに別の景色がだんだんはっきり見えてきた。 どうやら、どこかの庭園の中のようだ。周りが花壇で彩られている。「着いたわよ」「ええっ!?」 そりゃあワープとか、そういうのを期待していなかったと言えば嘘になる。 けど、こんな瞬時に移動できるものなの!?「だから瞬間移動って言うんじゃないかしら」「ああ、確かに……って心読まれた!?」 さすが魔法! チートすぎる!!「いや、だって雫ちゃん普通に喋ってるし。独り言に答えただけだし」 …………。「さて、行くわよ」「どこへですか?」「会議室よ」 そう言いながら、仙道さんは花の間の道を歩きだした。置いていかれないように私も急ぐ。「むしろここはどこですか?」「メルクリウス魔法学会(アカデミー)の本拠地、『知識の孤島(ブレイン・アイランド)』よ」「ブレインアイランド?」「場所は……伊豆諸島の近く、って言えばわかるかしら」「って、見つからないんですか? 普通の人に」「だって、あなたの街の公園の中の基地も見つかってないでしょ?」「それは、そうですけど……」 どうやら私が知らなかっただけで、魔法的な世界は意外とどこにでもあるみたいだ。「そういえば、あの青マントは……」「青マントって……ああ、あいつね。 アレは支部に置いてきたわ。 それと、青マントって呼ぶのはやめた方がいいかもしれないわよ?」「どうしてですか?」 名前も教えてもらえなかったので、あのままで統一しようと思っていたんだけど……。「あのマントはメルクリウス魔法学会の制服みたいなものだからよ。 青はメルクリウスの象徴色だから、その色のマントやローブで統一するのが一種のならわしみたいになってるのよ。 まあ、ぶっちゃけダサいから私みたいに他の魔法学会の人と会ったりするような人でない限り着ないけど」 要するに、魔法の世界での正装みたいなものだろうか。「……って、象徴色って何ですか?」 一語一語丁寧に説明してもらわないと、どんどん理解できなくなりそうだ。「ああ……そういえば属性神の話もまだだったわね。 簡単に言うと、『属性神に対応する、その神の力をより引き出せる色』ってとこかしら」「……???」 全然簡単じゃない。「といっても、実際にはメルクリウスが青っていう決まりはないんだけどね。 このテルス魔法神教が生まれた当初は、全員が全ての神から力をもらい、全ての力を使えた。 ところが、時が流れるにつれ、より強い力を求めた者たちは、『ある1体の神だけを信仰することで、その神の力をさらに強く使えるのではないか』と考えた。 その結果生まれたのが特定の神を属性神とした派閥……現在の魔法学会よ」「でも、それと色に何の関係が?」「根本的な考え方は同じね。 メルクリウスの力をより引き出すために、メルクリウスの魔法に特化した者が生まれた。 なら、逆に、メルクリウスの力を使える環境をある一部に特化することで、その環境でさらに強い力を発揮できる」「というと?」「つまり、『メルクリウスは青を司る』というルールを決める事で、青色の周囲においてその力は増幅する」「そんなこと、本当にできるんですか?」「そう言われても、実際できちゃうから仕方ないわね。 だから現在は1人につき1属性、というルールが確立してるわ。なぜなら、その方が一つの属性に稀にいくつかの属性を同時に使える猛者もいるけど」「へえ……」「ちなみに私はメルクリウスとウェヌスの2属性が使えるわ」「へえ……ええっ!? 仙道さんがその猛者だったんですか!?」 私はかなり驚いたが、仙道さんはさらっと答えた。「というか、この魔法学会自体が2属性持ちだからね」 ……………………。「はい?」「だから、この『テルス魔法神教メルクリウス・アカデミー』は、主属性神(メインフォース)にメルクリウス、副属性神(サブフォース)にウェヌスを掲げる魔法学会なのよ」 ……話が全くわからないんですけど……。

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真っ白なしずく 13年前

真っ白なしずく #5

「え?」「ちょっと用事があるのよ。説明は後でするわ」「はぁ……」 と言われても。 あまりに説明が途中で、しかも脇道にそれたままぶった切られたので、逆にどうでもよくなった。 マリ○カートでコースアウトしてジュ○ムに吊り上げられた瞬間にDSが電池切れしたようなものだ。もはや諦めがつく。「というわけで、行くわよ」 いつの間にか私の背後に回っていた仙道さんが言った。「……って、どこへですか?」「メルクリウス魔法学会(アカデミー)の本部よ」 さらりと答える仙道さん。「……誰が?」「あなた」「いや、何で突然ヒューマノイド・インターフェースみたいな喋り方に……」「ちなみに拒否権はないから」「ないんですか!?」「ほら、早く行くわよ」「……でも、私、そろそろ帰らないと……」 そうなのだ。 展開が早すぎてたぶんみんな忘れているが、一応まだ下校中。 未だに着ているのは学校の制服だし、帰らないとお母さんに心配されるだろう。「──そう。わかったわ」 仙道さんは意外とすんなり折れた。「でも……、あなたは興味ないのかしら? なぜ私たちが魔法を使えるのか。 本部に行けば、もっとたくさんの魔法も見られるわよ」「…………。 でも、やっぱり、帰らなきゃ──」 ものすごく気になるけど!「あ。そういえば、雫ちゃん、愛と美の女神『ヴィーナス』って知ってるわよね?」「ええ、まぁ……」 さすがにそれは知っている。「ヴィーナス……というのは英語読みで、私たちはウェヌスと呼んでいるんだけど。 この女神は、ギリシャ神話のアプロディーテー(ΑΦΡΟΔΙΤΗ)と同一視されていて、その語源は『アプロス(aphros)』。 これはギリシャ語で『泡』を意味するの」「はぁ……」 突然何を言っているのだろうか?「何でだと思う?」 訊かれたけど、全くわからない。 愛と美と泡に関係があるとは到底思えないし……。「わかりません……」「そうよね。 実は、ヴィーナスには、とんでもない誕生の秘密が隠されているのよ。 これ聞いたら、たぶん、ヴィーナスを愛と美の女神とか言ってる人を見るたびに、魂をこめて鼻で笑いたくなるわよ」「そんなに!? 嘲笑の域を超えてるッ!!」 そう言われると、すごく気になる。「一体どんな秘密が……!?」「それはね……」 私はわくわくしながら仙道さんに注目していた。が、「……………………、あ、あなたはそろそろ帰らないといけないのよね」「えぇえええええええええええ!? 何そのもったいぶり方!」「ほら、家まで送ってあげるわよ。 本部に行くならその道中で聞かせてあげようと思ったんだけど……残念だわ」「別に時間のかかる話でもないでしょう!」「いや、かかるのよ。ウラノスとサトゥルヌスの話もしないといけないし」「意味はわかんないけど酷い!」「世界の誕生の話からしないといけないから、時間かかるのよ?」「これ以上興味持たせることを言うなー!!」「さあ、早く帰らないとお母さんが心配しなさるわよ?」「ぐっ……」 言葉に詰まって、しばし考える。 もともと、行きたいなあっていう気持ちが4割8分くらいだった。 どちらかといえば帰った方がいいなあというくらいで、できる事なら行きたい。 でも、やっぱり……。 悩んでいるところで、仙道さんは魔法の呪文(あくまのささやき)を使った。「あ、そうそう。 場合によってはだけど……。 ……あなたのお母さんの記憶を改ざんする事もできるわ」「……………………。よろしくお願いします」 こうして、私のメルクリウス魔法学会本部行きが決定した。

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真っ白なしずく 13年前

真っ白なしずく #4

 部屋に入ってみると、意外と狭い事がわかった。 長机が横に3台並んでいて、向こう側に一人の女性が座っていた。 女性は、男のマントよりやや薄めの、水色に近い青のローブを身にまとっている。 年齢は20代後半か30代前半くらいだろうか。「はじめまして。座っていいわよ」 女性は優しそうに微笑んだ。「は、はぁ……」 とりあえず、女性の向かい側に用意された椅子に座る。 隣の椅子に青マントも腰かけた。 女性はしばらく無言で私の方を見てきた。 数秒間の沈黙の後、ようやく女性が私から目を離したので、私は少しほっとした。 女性は青マントの方に顔を向ける。「この子が、あなたの言っていた……?」「そうです、支部長」 この男が敬語を使うとは、よっぽど地位が高いらしい。 でも、名前すらわからない私は遠慮などしない。というより、できない。「あのー……。 すみませんが、あなたは?」 すると女性は笑った。「ごめんなさいね、紹介が遅れて。 私はテルス魔法神教メルクリウス魔法学会(アカデミー)若葉支部の支部長(エリアチーフ)、仙道よ」「…………」 専門用語が多すぎて、さっぱり訳がわからなかった。「えーと。 とりあえず、テルス魔法神教ってなんですか?」 さっぱり訳がわからないので、とりあえず登場順に問う事にした。「テルス魔法神教というのは……簡単に言うと、テルスという神を信仰する宗教ね」「テルス?」「ローマ神話に登場する神の名前よ。私たちの宗教は、ローマ神話の神を信仰しているの。 日本ではギリシャ神話の名前の方がなじまれてる事が多いんだけどね」「ギリシャ神話? って、ローマ神話とは別物ですよね?」「厳密にはそうだな」 青マントが口を挟んだ。「確かに、もともとは全く別の神話だ。だが、かなり早い段階で、ローマ人はギリシャ文化の影響を受け、ローマ神話の神とギリシャ神話の神を対応させる『翻訳』を行った。 そのため、ローマ神話に登場する神のほとんどは、それぞれ対応するギリシャ神話の神が決められている」「わかりにくいけど、『リンゴ』と『Apple』が同じ、って言ってるのと同じようなものよ」 ……やっぱり、仙堂さんの説明はわかりやすい。青マントとは段違いだ。「テルスは、ギリシャ神話で言うと『ガイア』ね。ローマ神話における最初の存在よ」 ガイア……なら確かに聞いたことがある。何となくだけど。「でも、なんで『魔法神教』なんですか? 単なる神話の神なら、魔法は関係ないんじゃ……」「そう。それは私たちにも謎なのよね。 わかってることは、一部の素質がある者に限り、ローマ神話の神を信仰する事で、その神から魔力を分けてもらう事ができる、ってこと。 だから、この魔法神教ではローマ神話の神を『魔法神』と呼ぶの」「へぇ……」 ──正直、全くもって信じられない話だった。 それはそうだろう。あらゆる困難が科学で解決するこの時代に、突然「ローマ神話の神から魔力をもらえます。一部の人はそれで魔法が使えます」なんてさらっと言われて信じられる人がいたら、その人はおそらくかなりイタい。 しかし、現に魔法としか思えない能力バトルを見せられている。となると……。「で、魔法学会っていうのは?」 ……とりあえず真偽はほっとく事にした。「テルス魔法神教の中には、無数の派閥が存在している。 というか、ローマ神話にはたくさんの神が登場する。そして、どの神を信仰するかによって得られる魔力が微妙に異なるの」「え?」 青マントの説明で、さらに訳がわからなくなった。 もともと意味不明だったが、輪をかけて意味不明になりやがった。「えっと、もうちょっとわかりやすく話してほしいんですけど」 そう言いながら私は仙堂さんに目で助けを求めた。青マントはあてにならない。「そうねえ。例えば、私はメルクリウス魔法学会に所属している。あ、魔法学会っていうのは、この神教での派閥の呼び方よ。 メルクリウス魔法学会は名前の通り、メルクリウスを属性神(フォース)……つまり信仰する神に位置付けている」「メルクリウス?」「ギリシャ神話だとヘルメス。英語読みの『マーキュリー』が一番わかりやすいかしら」「それって、水星ですよね?」「ローマ神話は、意外と身近なものの語源になっているのよ。天体、曜日、月とかに多いわね。 例えば、『6月の花嫁(ジューン・ブライド)』って知ってるでしょ?」「はい。この月に結婚すると幸せになれるっていう話ですよね」「ジューン(June)っていうのは、ローマ神話で最高位の女神であるユーノー(Juno)が語源になっているの。 6月の花嫁(ジューン・ブライド)は、女性の結婚生活を守護する女神ユーノーの加護を期待する風習なのよ」 ……初耳だ。それとも常識なの、これ?「あ、話がそれたわね……。どこまで話したかしら?」「確か……、メルクリウスが属性神になってる、ってところです」「そうだったわね。じゃあ……」「支部長。申し訳ありませんが、本部での会議まであまりお時間がありません」 青マントが口を挟んだ。「ああ、そうだったわ……。仕方ないわね。 ごめんね、雫ちゃん。説明は後回しよ」

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真っ白なしずく 13年前

真っ白なしずく #3

「いいだろう。ただし、簡潔にな」「無理に決まってるでしょう!」 私は思わず叫んでいた。「あなたは誰なんですか! というかここどこですか! で、さっきの超次元バトルは一体何だったんですか! さらっと<魔法学会(アカデミー)>だの<象徴魔法>だの<魔法領域>だの、意味不明な単語ばっかり使って! 意味を説明してくださいよ!」「…………落ち着け」「この状況で落ち着いてなどいられるかー!!」 ほとんど絶叫に近かった。「わかったわかった、一つ一つ説明してやろう。 ……だが、その前にやる事がある」 そういうと、青マントは突然私を抱きかかえた。「は? ちょっとあんた、突然何を……」「お前を支部に連れて行く。説明は着いてからだ」「ちょっ、待ちなさいよ! この状況放置して連れていくって、単なる拉致でしょ!?」「ああ。そうだな」「軽くあしらうなー!!」 ちなみに、人はこれを、お姫様だっこと謂う。  小4の時からここに住んでいるから、この公園には何百回も来ている。 ……にも関わらず、私の目に今映っているのは、全く見覚えのない景色だった。 見た事のない森を、飛ぶように突き進む青マントと、抱きかかえられている私。 ……というか、本当に飛んでないですか!?「ああ。飛んでるな」 男の足はほとんど地面につかない。 10メートル毎に地面を蹴っているから、厳密にはジャンプなんだけど、気分は完全に飛行中だ。「ねえ、いつになったら」「もう着いたぞ」 そう言って男は私を地面に下ろした。 目の前には、堂々と巨大な建物があった。 こんなものをどうやって公園の中に隠してあったんだろう? グーグルアースを使えば1分で見つけられる自信がある。「一人で大丈夫か?」「私は乳幼児か!」 大声をあげながら扉を勢いよく開けた。 中に見えたのは細長い通路で、山の中を進むトンネルみたいなつくりだった。両側の壁にランプがついている。 しかし、そんな事を考える余裕はほとんどなかった。なぜなら、「うわあっ!」 中から突風が吹いてきて、私は吹き飛ばされたからだ。 強いというか、すでに壁が迫っているような感覚。 前に進むどころか立ち止まるのも不可能だ。 宙を舞って吹き飛ばされかけた私の腕を、青マントが強く掴んだ。 予想通りのゴツゴツした手。温かみはなく、まるで……。「……って、何であんたは平気なのよ!」「慣れだ」「そんな理由!?」 男は平気な顔で突風の中を突き進んでいく。 鯉のぼりみたいにはためく私の手を掴みっぱなしで。  そのまま2分くらい進み続けると、ピタリと風が止んだ。「……どうなってるの? 扇風機みたいなものもないのに……」「魔法だ」 青マントがあっさりと私の独り言的悩みを解決する。「あ、そういえばあなたの名前は?」「……答える必要はない」「何でよ!」「着いたからだ」「は?」 青マントは無言で前の方を指差した。 立ち止まってそちらに目を向けると、青一色に塗られた扉が出現していた。 さっきまではほとんど空を飛んでいたため、全く気づかなかった。「……何を止まっている。 ほら、入るぞ」「ええ!? 入るの!?」「当たり前だろう。そのために連れてきたのだからな」「でも、明らかにこの扉の奥から『立入禁止です』っていうオーラを感じるんですけど……」「ああ。事前に連絡してあるからな。 私とお前と、支部長(エリアチーフ)以外は絶対に立入禁止となっている」「だから何で私が含まれてるの!? 魔法のこと何も知らないのに。まずは説明が先じゃ……」「説明はしてやるさ。……この中でな」 青マントは扉を開けて部屋の中に入ると、私を強引に引っ張りこんだ。 

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真っ白なしずく 13年前

真っ白なしずく #2

 半径1メートルほどのつむじ風が突然現れた。 私は少し離れたところにいたので、私を隠す葉が吹き飛ぶ事はなかったが、二人の男たちの周りの葉はすごい勢いで上へ吹き飛ばされた。 しかし、銀マントの方は驚きもせず、杖をちょいっと動かした。 すると、真っ黒な矢が杖の先から発射され、つむじ風の中心を射抜いた。 つむじ風は、それこそ雲散霧消という四字熟語がぴったりなくらいに、ぱっと消えた。「ディアナの象徴魔術か……」「『陰の矢』だ。こんな小手調べの魔法で打ち消せるとは思ってもみなかったぞ。 ……この程度か? メルクリウスの力は」「馬鹿にするな」 青マントが杖を大きく振った。「うわわっ!?」 さっきのとは比べ物にならないような規模のつむじ風。 小規模な竜巻とでも呼ぶべき勢いで、今度は私の隠れている場所までその風が届いた。 まるで磁石に吸い寄せられるかのように男たちの方へ吹き飛んでいく私だったが、それに男たちが気づく前に金マントが行動を起こした。 一瞬で姿を消したのだ。「!?」 青マントも驚きを隠せない。 と、次の瞬間、まるで地面から出てくるみたいに金マントは青マントの背後に現れた。「甘いな」「……ッ!?」 金マントは青マントの背中を思いっきり押した。 青マントの押された方向には、さっき巻き起こった竜巻がある!「うわァアああああ!」 自ら作った竜巻に巻き込まれ、青マントは空高く吹き上げられた。 その真下に私が強制的に吸い寄せられていく。 この訳のわからない勝負の只中に入ったら即死するような気がするなぁ、とかぼんやりと考えていたが、私は実際に今、巻き込まれかかっている。 つまり、即死しそうだった。「きゃぁあああああ!」 私は絶叫した。 その時、私の真上に吹き上げられていた青マントは、ポロッと何かを落とした。 それは、マントたちが持ってるのと同じ、杖だった。 ただし色は真っ白だ。 私は深く考えずに、反射的に落ちてくるそれを手に取った。  何も起きなかった。  私は手に取った途端にその杖が光りだすとか、爆発するとか、そういった魔法的なイベントを想像していたので、これにはちょっとガッカリだった。「痛っ!」 ──ガッカリした直後にガン!! と地面に墜落した。 青マントが何とか竜巻を抑えるのに成功したらしい。 あたりを少し見回したが、肝心の金マントはいない。いつの間にか消えていた。 ワンテンポ遅れて青マントが落ちてきた。「ぐはっ!」 地面に激突して、そのままピクリとも動かなくなった。「…………あのー、大丈夫ですか?」 へんじがない。ただのしかばねのようだ。「……私は別に死んでいないぞ」 前言撤回。何とか生きているらしかった。 というか、私としても答えてほしい疑問が無数にあるので、死んでもらうとすごく困る。「よかったです。 ところで──」「ん!?」 突然青マントが目を見開き、私の言葉を遮った。 その視線の先には……、私の握っている杖があった。「あ、この杖ですか? すいません、さっきあなたが落としたものをキャッチして……」「……貴様」 青マントは低い声で私の言葉を遮る。「はいっ!?」 あまりに恐ろしい声のトーンで、私は反射的に返事をした。「貴様は……どこの魔法学会(アカデミー)に所属しているのだ?」「……はい?」 アカデミー? そんな事言われても、何の事か、さっぱりわからない。「すいませんが……何の話をしてるんですか?」「とぼけるな!」 私は一喝された。理不尽だ。「この杖が変色せず、崩壊もしていない。つまり、お前は別の杖の保持者なのであろう」 何を言っているのか、全く理解できない……。 ──できないので、正直に言う事にした。「すみません。 私はあなたの話がこれっぽっちも理解できません」「……本当か?」 疑いの目を向けてくる青マント。「本当です」 としか答えようがなかった。「それよりも、まず、この状況を説明してもらえませんか? ……あなたから、私に」 質問をしたいのは、むしろこっちの方なのだ。

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真っ白なしずく 13年前

真っ白なしずく #1

 その日。 私は、うちの近くにある大きな公園の中を歩いていた。 私の住んでいる若葉市は特殊な作りをしていて、このムダに大きな町のシンボル「若葉公園」がベルリンの壁のごとく市を真っ二つに引き裂いていた。 その代わりこの公園は豊かな自然に溢れていて、遊園地や動物園も入っているかなり快適なところなのだ。 が、もうちょっと他に快適にすべきことがあったような気がする。 なんせ、通っている中学はこの公園の反対側にあるのだ。 通学路が道路ではなく森の中なので、歩きにくいことこの上ない。 特に今日は昼間に雨が降ったので、泥になっていた。本当に歩きにくい上に服が汚れる。 一応公園の上空をモノレールが通っているが、有料なのでやっぱり関係ない。「……うだー……」 歩きながらどんどんやる気が亡くなった。 まだ5月にもなっていないというのに新学期特有の高揚感は早くも失われていた。   私の名前は涼風雫。 14歳で、一応受験を控えた中学3年生なのだが、特に志望校もないため、絶対受かってやるぞー!などという気はさらさらなかった。「別に落ちてもどっかしら拾ってくれるシステムだしなー、高校は」 本当にどうかは知らないがたぶんそうだと思う。 高校で浪人って聞いたことないし。   今は学校の帰り道。 ──だったんだけど。「ここどこ?」 気がつくと、私は謎めいた空間に迷い込んでいた。 ……ファンタジーっぽく言ってみたけど、要するに、迷子だ。「2年以上通ってる道で迷子って……」 我ながら情けなくなる。 仮にも最上級生だよね?「でも、本格的にどこかわかんない……」 どう考えても見た事ない場所だ。 私は迷子になりやすい上に記憶力が悪い性質を持っているので、普通の通学路を勘違いしている可能性もある。 どこを見ても木しかないような森の中なのでなおさら疑わしい。 ──疑わしい、が。「いくらなんでもこれは間違えようがない!」 私の目の前には、巨大な穴が空いていた。 それも、半径2メートル、深さ5メートルくらいあるようなビッグサイズの穴だ。 これはどう考えてもお茶目な子どもが「誰か落ちないかなー」とか期待しながらイタズラで作れる範囲を大きく越えているし、どんなに用心深い犬でもこんな真剣に骨を埋めようとは思わないであろう。 そんなスケールの穴だった。「誰がこんな穴を?」 とは言ってみたが、機関のメイドさんがヘリから飛び降りてきたのでない限り、この穴は簡単に掘れるものではない。 となれば、元からあった穴と考えるのが自然だ。「……こんな穴、公園にあったかな?」 私が「穴」というキーワードで自らの記憶の中を検索していると、  何かが爆発した。  実際に見えた訳ではない。 しかし、凄まじい風圧と鼓膜が破れるような轟音は、間違いなく爆発のそれだった。 無意識の内に音の聞こえた方角へと走ってみると、そこには二人の男が立っていた。 一人は深い青色、もう一人は銀色に輝くマントを付けている。 どちらも20代後半くらいで、身長はおそらく170センチほどだろう。 しかし、なぜか二人の雰囲気があまりに険悪だったので、私は慌てて近くの木陰に身を隠す。 二人の男は、まるで魔法使いが持っていそうな長い杖を相手に向けて、睨み合っていた。 杖は、マントと同じ色で綺麗に染まっている。「ここは我々メルクリウスの領域のはずだが?」 青マントの男が嫌悪感をむき出しにして尋ねる。「だからどうした。ここに立ち入る事自体は問題ないはずだ」「だがここは我々の領域だ。貴様だって、<神教協定(テルス・ルール)>くらいは頭に入っているのだろうな?」 意味のわからない単語が飛び交う。 この人たちは誰なんだろう?「もちろんだ」 お互いに杖を下ろす気はさらさらないらしい。 そういえば、さっきの爆発音は何だったんだろう?とふと思ったところで、「では、その法に基づき、貴様を──殺す」 青マントの男が杖を振った。  突如として、激しいつむじ風が巻き起こった。

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